熟年離婚の財産分与はどうなる?退職金や年金についても解説
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
50代~60代の夫婦の場合、子供が自立したことや定年退職を迎えたことをきっかけに長年我慢してきた夫婦生活から解放されたいと考え、熟年離婚を選択される方がいらっしゃいます。
熟年離婚においては、離婚後に安定した生活が送られるように財産分与をしっかり行い、財産を確保することがとても重要なポイントとなります。
本記事では、熟年離婚の財産分与の割合、財産分与の対象となる財産、財産分与の対象とならない財産など、「熟年離婚の財産分与」に関して詳しく解説します。
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熟年離婚すると財産分与はどうなる?
財産分与とは、婚姻生活中に夫婦で協力して築きあげた財産を夫婦の貢献度に応じて分け合うことをいいます。
熟年離婚の場合は、婚姻期間が長いため、財産の種類が多く複雑になっていたり、財産が高額になっていたりして、財産分与について、夫婦間では解決できず揉める場合が多く見受けられます。
また、離婚前にどのような財産があって、どのような価格・価値になっているかなど、事前に調べておくのが、とても大切です。
財産分与について、下記ページでも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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婚姻期間と財産分与の相場
婚姻期間20年以上の夫婦の場合、下記図のとおり、1000万円以下で財産分与を取り決めした夫婦が最も多くなっています。
一方で、婚姻期間が5年未満と短い夫婦は100万円以下で財産分与を取り決めした夫婦が最も多くなっているのがわかります。
婚姻期間が長くなればなるほど、夫婦で築き上げた財産が多くなり、熟年離婚の場合は財産分与で受け取れる金額は高額になる傾向となるのがわかります。
出典:令和2年度統計-裁判所 https://www.courts.go.jp/app/files/toukei/261/012261.pdf
財産分与の3つの種類
財産分与は、次のとおり、主に3種類に分けられます。それぞれ詳しく解説していきましょう。
- ①清算的財産分与
婚姻期間中に夫婦で協力して築きあげた預貯金や不動産や有価証券などの共有財産を原則2分の1ずつに分け合うことをいいます。財産分与の中核であり、財産の名義はどちらか問いませんし、離婚原因も問いません。 - ②扶養的財産分与
離婚によって、夫婦のどちらか一方が生活に困窮する場合に、生活を補助する扶養的な目的で財産を分けることをいいます。
例えば、高齢や病気を患っていたりして、安定した収入を得られる仕事になかなか就けない場合などに認められるケースがあります。 - ③慰謝料的財産分与
慰謝料は、財産分与とは性質が異なるものなので、本来は別で算定して請求するのが原則とされています。しかし、慰謝料も財産分与も金銭が問題となるものなので、明確に区別せずにまとめて、慰謝料も含めて財産分与することも可能です。
熟年離婚の財産分与の割合
熟年離婚の財産分与の割合は、通常の離婚の場合と同様、原則として2分の1ずつです。ただし、一方が会社の経営者やスポーツ選手のように高額な収入を得ている場合、特別な地位や能力によって財産が形成されているとして、その者の財産分与の割合が増えるケースもあります。
なお、双方が話し合い、合意すれば、自由な割合で財産分与することは可能です。
財産分与の割合についての詳しい内容は、下記の記事をご覧ください。
専業主婦の財産分与の割合は?
「専業主婦で収入がないから、財産分与してもらえない。」と思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、専業主婦でも財産分与を受けることができます。
例えば、夫が会社員で妻が専業主婦の夫婦だった場合、夫婦の財産の大部分は夫が働いた収入で形成されていますが、妻は家事・育児をして家庭を守り、夫をサポートしていたからこそ、財産の形成や維持ができたと考えられるため、財産分与の割合は原則2分の1となります。
専業主婦の財産分与について、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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共働き夫婦だと割合は変わる?
共働き夫婦の場合、財産分与の割合は基本的に2分の1ずつとなります。
実際には夫婦の収入に差があるというようなケースでも、この割合については変わりません。
しかし、以下のような場合に、例外的に財産分与の割合が2分の1にならない可能性もあります。
- 夫婦の一方が医師やスポーツ選手で、特殊な資格や才能などによって高額な収入を得ている
- 夫婦の一方が家事・育児をほとんどしていた
例外的なケースを含め共働き夫婦の財産分与について、下記ページでさらに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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財産分与の対象になる財産
婚姻生活中に夫婦で協力して築いてきた財産を「共有財産」といいます。
財産分与の対象になる財産は、共有財産のことをいい、具体的には次のようなものになります。
財産の名義は、夫婦どちらであろうと問いません。
- 不動産(家、マンション、土地など)
- 現金
- 預貯金
- 自動車
- 生命保険、学資保険など
- 退職金
- 有価証券、投信信託など
- 家財道具
- 美術品、貴金属など
- 借金、ローンなどの負債
など
財産分与の対象となる財産について、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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持ち家や土地
持ち家や土地の財産分与の方法として、主に次のような方法があります。
- ①持ち家や土地を売却して、売却代金を分け合う
- ②持ち家や土地をどちらか一方が取得して、他方に代償金を支払う
- ③持ち家や土地をどちらか一方が取得して、他方に持ち家や土地の評価額相当のほかの財産を渡す
しかし、住宅ローンが残っている場合は注意が必要です。
持ち家や土地の価値がローンの残高を上回る場合(アンダーローン)は、ローン残高分を差し引いてもプラスの財産があるので、ローン残高分を差し引いた残りの金額分を夫婦で分け合います。
一方で持ち家や土地の価値がローンの残高を下回る場合(オーバーローン)は、ローン残高を差し引くと、持ち家や土地の価値が残らないばかりか、売却してローンの返済に充ててもまだローンが残ってしまう状態になります。このような持ち家や土地自体が債務超過のマイナスの財産になる場合は、財産分与の対象外となります。
持ち家の財産分与や土地の財産分与については、それぞれ下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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退職金
退職金は、給与の後払いのような性質をもつと考えられているため財産分与の対象になります。退職金は、基本的に2分の1ずつ分け合いますが、夫婦の婚姻期間や勤続年数が考慮され、個別の事情によって異なります。
なお、まだ退職金が支払われてない場合、退職金の支払いがほぼ確実なのであれば、財産分与の対象となります。
退職金の財産分与について、下記ページで詳しく解説で、ぜひご覧ください。
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年金
離婚するときに、夫婦が加入していた厚生年金(旧共済年金も含む)の保険料給付実績のうち、報酬比例部分について、年金額が多い配偶者から、少ない他方の配偶者へ分割する制度を年金分割といいます。
年金分割の方法は、以下表のように、2通りあります。
合意分割 | 婚姻期間中の厚生年金または旧共済年金の保険料納付記録(対象期間標準報酬総額)を夫婦当事者間で分割する制度。 夫婦の合意が必要で、割合は夫婦で決められる。 |
---|---|
3号分割 | 国民年金の3号被保険者を対象に、配偶者の同意はいらずに2分の1ずつ年金分割する制度。 |
年金分割について、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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へそくりも財産分与の対象?
へそくりとなった元のお金の出所によって、財産分与の対象となるかどうかが変わります。
例えば、婚姻生活中の夫または妻の給料、収入をへそくりの資金にした場合は共有財産となり、財産分与の対象になります。
一方で独身時代から持っていた財産や親から生前贈与・遺産相続した財産、あるいは独身時代から保有していた株を売って、換金して、へそくりにした場合などは特有財産となるので、財産分与の対象とならないケースとなります。
へそくりの財産分与については、下記ページでさらに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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財産分与の対象にならない財産
夫婦が協力して築いたものではなく、夫婦どちらかの固有の財産を「特有財産」といい、財産分与の対象となりません。
具体的には、次のような財産は、財産分与の対象とならないものです。
- 親や親族から生前贈与、または遺産相続した財産
- 結婚前の独身時代から所有していた財産
- 別居してから夫婦それぞれが取得した財産
- 結婚時に持参した嫁入り道具
など
熟年離婚時の財産分与の請求方法
財産分与の請求方法は、離婚前に請求するか、離婚後に請求するかによって多少変わります。今回は離婚前に請求する方法を解説します。
財産分与の請求方法は主に次のとおりです。
- ①夫婦間で話し合う
- ②離婚調停
- ③離婚裁判
夫婦間での話し合いで合意できた場合は、合意した内容を書面に記して残しておきましょう。できれば、後からのトラブルを防止するために強制執行認諾付の公正証書を作成しておくと、相手が約束したにも関わらず財産分与を守らなかった場合に強制執行の手続きをして、相手の預貯金や不動産などを差し押さえることができます。
離婚調停や離婚裁判に進む場合は、夫婦で築きあげた財産(共有財産)であるとわかる預貯金通帳、保険証書、不動産の登記簿謄本などの資料を揃えておくようにしましょう。
裁判所の手続きは、法律の専門的知識を要するため、弁護士に相談して進めるのがいいでしょう。
財産分与の決め方と手続きについて、詳細については以下のページをご覧ください。
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財産分与の請求は拒否できるの?
相手から財産分与の請求をされた場合は、原則的に拒否はできません。
ただし、財産分与は、夫婦それぞれがもつ権利(財産分与請求権)でありますが、離婚に伴って必ず取り決めをしなければならない事項ではありません。権利を行使するかどうかは、夫婦の自由です。
したがって、相手が財産分与を放棄した場合や、財産分与をしないと合意を得られた場合や、離婚から2年経過している場合などは財産分与をしなくてもいいでしょう。
財産分与の請求拒否については、下記ページでさらに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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メールで相談する財産分与は離婚成立から2年で時効になるため注意!
財産分与の請求権は、離婚成立から2年以内に請求しなければ消滅してしまいます。
調停や裁判などの裁判所の手続きを利用して財産分与する場合は離婚成立から2年経過すれば請求できなくなってしまいます。ただし、当事者同士の合意があれば、離婚成立から2年経過後も財産分与は可能です。
なお、離婚後に元配偶者の隠し財産(へそくり)を発見した場合も、離婚成立から2年以内であれば、財産分与をするように請求できます。
弁護士に依頼した結果、約3ヶ月で離婚成立かつ800万円の財産分与を獲得できた事例
【事案の概要】
結婚生活35年、夫婦で共同して自営業を営んでいました。
ご依頼者様は、結婚生活を続けることは不可能と思うようになり、相手に離婚を申し出しました。
しかし、「一方的な申出であり、離婚には応じられない。」といわれ、困り果てて相談にいらっしゃいました。
【弁護士方針・弁護士対応】
本事案は、離婚理由が特に存在せず、相手が離婚に応じなければ相当期間の別居を経ないと離婚が成立しない状況でした。
そこで、担当弁護士は、相手が離婚に応じるように交渉を開始し、離婚同意にもっていければ、財産分与の話し合いを進める方針としました。
【結果】
交渉を開始するも、当初の意見同様に「一方的な申出であり、離婚に応じられない。」という回答でした。しかし、弁護士が相手に粘り強い交渉をした結果、「離婚に応じる」との回答を得られました。
その後は、相手と財産分与について、協議をしていたところ、相手が突然弁護士に依頼しました。相手がすべての財産を管理していたので、一定程度の財産を保有しているのは明らかでした。
そこで、弁護士は相手の弁護士に財産をすべて開示するよう求め、応じない場合には離婚調停を申し立てると伝えました。
すると、相手の弁護士から、財産分与として800万円を支払うという回答がありました。
結果、受任後約3ヶ月で財産分与として800万円を獲得してスピード離婚が実現しました。
ご依頼者様は、800万円も受け取れると予想されていなかったので、大変喜んで満足していただける結果となりました。
熟年離婚の財産分与に関するQ&A
- Q:
結納金でそろえた家具は財産分与のときにどうなるの?
- A:
結納金で揃えた家具は、財産分与の対象となる可能性があります。
結納金は、婚約のしるしとして渡されるものであるため、結婚以前の形成財産となります。そのため、結納金そのものは、妻の特有財産となります。
しかし、結納金を使って家具を購入した場合、家具は結婚後の夫婦生活のなかで一緒に利用されるものなので、夫婦の共有財産となっているとも考えられます。
したがって、今、結納金が家具に代わっている場合は、財産分与の対象になる可能性があります。
- Q:
別居中に購入したマンションは財産分与の対象になるの?
- A:
購入資金の出どころによって異なります。相続財産等の特有財産を資金源として購入した場合は財産分与の対象となりません。逆に、婚姻期間中に貯めた貯金等の夫婦共有財産を資金源として購入した場合は財産分与の対象となります。
- Q:
相手に隠し財産があるかどうかを調べる方法はある?
- A:
まずは、自宅に届いた郵便物の中に知らない金融機関から届いている書類はないか確認しましょう。
あとは弁護士に依頼すれば、弁護士会照会制度を利用して、相手の財産を調べることができます。そのほかにも離婚調停や離婚裁判に係属している場合は、家庭裁判所を通して、調査嘱託の申し立てをして、金融機関に対して情報の開示請求や調査依頼をするのも可能です。
ただし、弁護士会照会制度と調査嘱託の申立ては、財産を保有している金融機関名や支店名の特定が必要です。どこの金融機関の口座かはわからないといった場合は、調査できませんのでご注意ください。
- Q:
長年支払われなかった生活費を財産分与で請求できる?
- A:
長年支払われなかった生活費を財産分与で請求できる可能性は高いでしょう。
夫婦と未成熟子が生活するためにかかる費用を「婚姻費用」といいます。
婚姻費用は、夫婦が収入に応じて分担する義務を負っており、別居をしていたとしても、法律上の夫婦である限りは義務を負うことになります。婚姻費用の支払い請求権は別居時から発生しますが、支払い義務は「婚姻費用を請求したとき」に生じるのが一般的です。そのため、未請求の過去にもらえるはずだった婚姻費用は、後から請求しても原則認められません。
しかし、離婚する際に過去の未払いの婚姻費用は、財産分与において考慮され得ると裁判例でも認められていますので、実務上、財産分与に加えて請求することは可能といえます。
熟年離婚の財産分与についてわからないことは弁護士に相談しましょう
熟年離婚は、婚姻生活が長期間に及んでいるので、財産が複雑になっていたり、高額になっていたりして、財産分与で揉めてしまう方はたくさんいらっしゃいます。
また、共有財産なのか、特有財産なのか、どちらかわからないという方も見受けられます。
熟年離婚時の財産分与でお困りのある方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
ご夫婦の状況を伺い、財産分与の対象となる財産をしっかり精査して判断します。
また財産分与について、弁護士が相手と直接交渉(話し合い)するのも可能ですし、調停や裁判などに移行しても、代わりに弁護士が手続き一切を行います。
後悔のない、少しでも有利になる財産分与ができるように、ぜひ、弁護士法人ALGにお気軽にお問合せください。
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- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)