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扶養義務の範囲や養育費との違いをケース別で解説いたします

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

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扶養義務とは?

扶養とは、自らの資産や労力だけでは生活を維持できない者に対する援助のことをいいます。
ある者を扶養しなければならないことを扶養義務といい、扶養義務を負う者を扶養義務者といいます。
また、扶養義務者から扶養を受ける権利を有する者を扶養権利者といいます。

扶養の程度や方法については、基本的には、個々の具体的な事情に応じて、当事者同士で話し合って決めることになります。
当事者間での協議が調わない場合等には、「扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める」ものとされています(民法879条)。

扶養請求権は放棄できる?

扶養を求める権利(扶養請求権)は、あくまでも一定の身分関係を基礎として当該困窮者の生活を維持するために与えられた権利であり、いわゆる一身専属権としての性質があるとされています。

そのため、扶養請求権は、「処分することができない」とされています(民法881条)。
具体的には、扶養請求権を他者に譲渡したり、相殺したりすることは認められておらず、放棄することもできないと考えられています(札幌高決昭和43年12月19日)。

扶養義務の範囲はどこまで?

【誰】が【誰】に対して扶養義務を負うのかについては民法に規定されており、これを整理すると、概ね、次のとおりです。

(1)【親】が【未成熟子】に対して負う扶養義務

ア 扶養義務の内容

まず前提として、ここでいう「未成熟子」は、さしあたり「未成年者」とお考えください(詳細は、後述のとおりです)。
※以下、単に「子」と表記しますが、この項(1)では基本的に「未成熟子」「未成年者」を念頭に置いていますので、ご留意ください。

夫婦間に生まれた子に対して、その親は、扶養義務を負います(民法877条)。

よく養育費と呼ばれることが多いですが、厳密にいうと、養育費とは、夫婦が「離婚」した後に、非監護親が監護親に対して支払う子の生活費等のことをいいます(民法766条)
夫婦が「婚姻」している間は、このような費用は「婚姻費用」に含まれるのが通常です(民法760条)。

イ 婚姻していない夫婦から子が生まれた場合

婚姻していない夫婦から子が生まれた場合、母子関係は「分娩の事実」から確定するので、母親がその子を扶養する義務を負うことは明らかです。
他方、父親に関しては、「認知」がされない限り、父子関係は確定しません。(788条、766条)

ウ 養子縁組をした場合

養子縁組によって他人の子を養子とした場合、「養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる」ものとされています(「法定血族」と呼ばれています。民法727条)。
そのため、養親と養子の間には「直系血族」関係(民法877条)が生じるので、養親は養子を扶養する義務を負うことになります。

なお、たとえば、ある男性が、連れ子がいる女性と婚姻し、その子と養子縁組をした場合、その後、夫婦が離婚したとしても、それだけでは養親子関係は消滅しません。その男性は、引き続き、養子を扶養する義務を負い続けることになります。
その男性が養子に対する扶養義務を免れるためには、その養子と離縁をする必要があります。

エ 夫婦が離婚した後、子の親権者が再婚した場合

この扶養義務は、直系血族の関係があることから発生しているものですので、たとえば、夫婦が離婚して、母親が子の親権者となり監護している場合であっても、父親は子の扶養義務を負い続けることになります。

このケースで、母親が他の男性と再婚したとしても、実父である元夫の、子に対する扶養義務は継続します。

もっとも、このようなケースで、母親が他の男性と再婚し、さらに再婚相手が母親の連れ子と養子縁組をした場合には、その再婚相手も連れ子に対して扶養義務を負うことになります。
そうすると、実父と養親の双方が連れ子に対して扶養義務を負うことになりますが、この場合、養親が第一次的に扶養義務を負うものとされ、実父は養育費の支払義務を免除されることが多いと思われます。

(2)【夫婦の一方】が【夫婦の他方】に対して負う扶養義務

夫婦は、婚姻中、お互いに扶養し合う義務があります(民法752条、760条)。
夫婦が婚姻中に別居をしている場合、基本的には、収入の多い方が、他方に対し、「婚姻費用」を支払うことになります。

夫婦が離婚すると互いに扶養し合う義務はなくなりますので、離婚後は、夫婦の一方が他方に対して「婚姻費用」を負担する義務もなくなります。

(3)【子】が【親】に対して負う扶養義務

たとえば、親が老衰して働けず、十分な資力がない場合には、その子は、老親に対して、扶養する義務を負います(877条1項)。

(4)【兄弟姉妹の一人】が【他の兄弟姉妹】に対して負う扶養義務

兄弟姉妹同士も、他の兄弟姉妹を扶養する義務を負います(877条1項)。

(5)【3親等内の親族の一人】が【他の3親等内の親族】に対して負う扶養義務

以上のほか、3親等内の親族間においても、家庭裁判所が「特別の事情」があると判断(審判)した場合には、扶養する義務が生じることがあります(877条2項)。
たとえば、おじ(又はおば)とおい(又はめい)等です。

この義務は当然には発生せず、家庭裁判所による審判があって初めて発生します。

扶養料と養育費の違い

扶養料とは、扶養義務の履行として、扶養義務者から扶養権利者に支払われるお金のことを指します。

他方、一般的に、養育費といわれることがよくありますが、これは、「養育」という文言のとおり、「子の監護親が、非監護親に対して請求する、子を養育するために必要な費用」のことを指します。
詳しくは下記の記事をご覧ください。

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扶養料はどのような場合に請求できる?

(1)扶養義務の内容

まず、扶養義務の内容について、ご説明します。
扶養義務は、大きく、生活保持義務と生活扶助義務に分かれます。

ア 生活保持義務

「親の未成熟子に対する扶養」や「夫婦間の扶養」については、扶養することが身分関係の本質的で不可欠の要素をなしているとして、自己の生活を切り下げてまで自己と同程度の生活をさせる義務があると考えられています。
これを生活保持義務といいます。

前記3の扶養義務でいう(1)(親の未成熟子に対する扶養義務)(2)(夫婦間の扶養義務)がこれに当たります。

イ 生活扶助義務

他方、「老親・祖父母孫・兄弟姉妹・3親等内の親族に対する扶養」については、扶養することは偶然的・例外的な関係であるとして、相手が最低限の生活を維持できない状態にあり、かつ、扶養する側に余力がある場合に発生するものと考えられています。
これを生活扶助義務といいます。

前記3の扶養義務でいう(3)(子の親に対する扶養義務)(4)(兄弟姉妹間の扶養義務)(5)(3親等内の親族間の扶養義務)がこれに当たります。

(3)扶養料

扶養料については、婚姻費用とそれ以外とに分けて、ご説明します。

ア 婚姻費用

婚姻費用とは、夫婦が婚姻中に、夫婦の一方が他方に支払うものです。
これには、夫婦の他方の扶養料(【夫婦間】の扶養料)のほか、未成熟子がいる場合にはその未成熟子の扶養料(夫婦が婚姻中における【親】から【未成熟子】に対する扶養料)も含まれています。

そして、養育費と同様に、「婚姻費用」についても、実務上は、いわゆる「婚姻費用の算定表」に基づいて婚姻費用の金額を算定することが多いです。

イ 婚姻費用以外の扶養料

婚姻費用以外の扶養料は、基本的に、生活扶助義務(相手が最低限の生活を維持できない状態にあり、かつ、扶養する側に余力がある場合に発生する義務)に関するものですので、そもそも「扶養料を支払う義務が発生するのか」というレベルで問題となります。

前述のとおり、扶養の程度や方法については、当事者間での協議が調わない場合等には、「扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める」ものとされています(民法879条)。

6 成人しているが、大学等に進学して働いていない場合、扶養義務はある?

(1)未成熟子とは

親は「未成熟子」に対して扶養義務を負うことは説明しましたが、この「未成熟子」とは、具体的には、何歳までの子をいうのでしょうか。

一般的には、一定の年齢になって稼働能力を有するようになれば、「未成熟子」とはいえない、ということになると思われます。
その時期は、必ずしも成年年齢とは一致するとは限りませんが、基本的には、「未成熟子=未成年者」と考えることが多いと思われます。

(2)成人している大学生の場合

それでは、成人はしているが、大学等に進学しているためまだ働いていない子は、「未成熟子」といえるのでしょうか。

この場合、一般的に、大学生には就労が期待できないわけですから、未だ十分な稼働能力を有しているとはいえないとして、「未成熟子」であると考えることもできると思います。

判例によれば、両親の資力、学歴など家庭環境を考慮して、その環境で大学進学が通常のことと考えられる場合には、大学卒業時までの扶養義務を認めています。
たとえば、父親が医者で母親が薬剤師という家庭で第一子が薬科大学に進学している場合に、その卒業時の年齢までの扶養義務を認めた事例があります(大阪高決平成2年8月7日)。

(3)成人した学生は個別の事情で判断すべき

しかし、大学生といっても、勉強中心の生活を送りお金のことは全部親に頼っている人もいれば、学費や下宿費はアルバイトや奨学金を利用して自分で賄うという人もいますので、成人に達した大学生が「未成熟子」といえるかどうかについては、個別の事情で判断すべきということになります。

この点について、両親が離婚後、私立大学に進学した子が、奨学金やアルバイトなしに勉学中心の学生生活を過ごしておいて、学費、生活費を全て母が負担していることから、父に対して大学卒業までの授業料と月9万円の生活費の支払いを求めた事案をご紹介します。

原審は、成人に達した普通の健康体である者には潜在的稼働能力が備わっているため、当該子は要扶養状態にない(≒「未成熟子」ではない)と判断しましたが、抗告審はこれを取り消しました(東京高決平成12年12月5日)。

東京高裁は、未成熟子かどうかの判断基準について、次のように判示しました。

「4年制大学への進学率が相当高い割合に達しており、かつ、大学における高等教育を受けたか否かが就職の類型的な差異につながっている現状においては、子が義務教育に続き高等学校、そして引き続いて4年制の大学に進学している場合、20歳に達した後も当該大学の学業を続けるため、その生活時間を優先的に勉学に充てることは必要であり、その結果、その学費・生活費に不足を生ずることがあり得るのはやむを得ないことというべきである。」
「このような不足が現実に生じた場合、当該子が、卒業すべき年齢時まで、その不足する学費・生活費をどのように調達すべきかについては、その不足する額、不足するに至った経緯、受けることができる奨学金(給与金のみならず貸与金を含む。以下に同じ。)の種類、その金額、支給(貸与)の時期、方法等、いわゆるアルバイトによる収入の有無、見込み、その金額等、奨学団体以外からその学費の貸与を受ける可能性の有無、親の資力、親の当該子の4年制大学進学に関する意向その他の当該子の学業継続に関連する諸般の事情を考慮した上で、その調達の方法ひいては親からの扶養の要否を論ずるべきものであ」る。
「その子が成人に達し、かつ、健康であることの一事をもって直ちに、その子が要扶養状態にないと断定することは相当でない。」

就職活動において大学に進学したかどうかが大きく影響する昨今、親の離婚という自分でどうにもできない状況により大学を中退せざるを得ないような事態を避けるためにも、妥当な判断であろうと思います。

以上のほか、いくら養育費を請求できるのか、扶養料を請求することができそうか等については、個別の事情によって金額等が変わってきますので、ぜひ弁護士にご相談ください。

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