親権喪失・親権停止・管理権喪失とは?子供を守るための制度を解説
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
親権は、子供の利益のために行使すべきものです。しかし、親権を持ったのをいいことに、親権者が子供に暴力を振るう、子供の財産を浪費するといった事態も残念ながら発生しています。
こうした虐待などから子供を守るために、民法では親権を制限する制度が設けられています。主なものとしては、親権喪失・親権停止・管理権喪失の3つがあります。
本ページでは、これら3つの親権を制限する制度について詳しく解説していきます。それぞれの制度を利用できる要件や手続き方法などを紹介していきますので、ぜひ参考になさってください。
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虐待などから子供を守る3つの「親権制限制度」
児童虐待は後を絶たず、なかには子供の命が奪われてしまう事件も起こっています。実際、厚生労働省が公表している資料を見ると、児童相談所に寄せられた児童虐待の相談件数は、年々増加傾向にあることがわかります。令和2年度は、20万5044件もの相談があったそうです。
なお、“児童虐待”と一口に言っても、その内容は様々であり、次の4つに分類できます。
身体的虐待 | 殴る、蹴る、熱湯をかける、たばこの火を押し付ける、激しく揺さぶる など |
---|---|
性的虐待 | 子供に性的行為をする、性器や性的行為を見せる、アダルトビデオを見せる など |
ネグレクト | 食事を与えない、学校に行かせない、家を不衛生な状態にする、病院に連れて行かない など |
心理的虐待 | 暴言を浴びせる、無視する、きょうだい間で差別して扱う など |
このような虐待をする親から子供を守るために、民法には【親権喪失】【親権停止】【管理権喪失】といった、「親権制限制度」が用意されています。
親権喪失
親権喪失とは、期限を定めずに親権を失わせることをいいます。この制度を利用するためには、次のいずれかの要件を満たしている必要があります。
- 親権者による虐待または悪意の遺棄があるとき
<例>日常的に子供が暴力を振るわれている、食事を与えられていない など - その他、親権の行使が著しく困難または不適当であることにより、子の利益を著しく害するとき
“著しく”というのがポイントです。親権を奪うのですから、よほどの事情がなければなりません。典型例が、上記の虐待や悪意の遺棄になります。
親権喪失となったら、取消しがなされない限り、親権者は永久に親権を失うことになります。そのため、認められるためのハードルはとても高いのが現状です。
なお、親権を喪失させたいとする原因となった事情が、2年以内に消滅する見込みがある場合は、親権喪失はできません。続いて紹介する「親権停止」となる可能性があります。
親権停止
親権停止とは、一定期間、親権の行使をストップさせることをいいます。平成23年の民法改正によって、新たに設けられた制度です。停止する期間は、停止を求める原因となった事情が消滅するまでにかかるだろうと考えられる期間のなかで、子供の状態などを考慮して決められます。ただし、最長でも2年とされています。
親権停止をするための要件は、次のとおりです。
●親権の行使が困難または不適当であることにより、子の利益を害するとき
先ほどの「親権喪失」とは違い、要件に“著しく”という文言がありません。また、親権喪失と親権停止の違いとして大きいのが、期限付きかどうかということです。親権喪失では無期限で親権を失うのに対し、親権停止では期限付きで一時的に親権を行使できないように制限されます。このような違いから、親権停止の方がハードルは低いといえるでしょう。
管理権喪失
管理権喪失とは、親権のうち財産管理権のみを失わせることです。親権は、子供の日々の世話をする「身上監護権(監護権)」と、子供の財産を管理する「財産管理権」の大きく2つの柱から成り立っています。管理権喪失となったら、親権者はこのうちの「財産管理権」のみを行使できなくなるということです。
管理権喪失が認められるには、次の要件を満たす必要があります。
●管理権の行使が困難または不適当であることにより、子の利益を害するとき
例えば、次のようなケースでは、管理権喪失が認められる可能性があります。
- 子供の預貯金を使い込んだ
- 子供が相続や贈与などによって得た財産を、自身の借金の返済に充てた
親権喪失・親権停止・管理権喪失に関する裁判例
親権喪失に関する裁判例
大阪高等裁判所 令和元年5月27日決定
事案の概要
児童相談所長が、児童養護施設に入所している未成年者の親権者の親権喪失を求めた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、未成年者と親権者の同居期間はわずか約1年7ヶ月程度しかなく、養育の実績はほとんどないこと、親権者はアルコール依存の程度が高く暴力傾向も強いことなどから、親権喪失の一事情となり得ると判断しました。
また、これまで児童相談所長が度々指導しても従わず、自身の生活態度を改めなかったことも踏まえ、2年以内に親権喪失の原因が消滅するとは考えられないとしました。
こうした事情から、親権喪失の事由があると判断し、申立てを却下した第一審を取り消して、親権を喪失させることを認めました。
親権停止に関する裁判例
東京高等裁判所 令和元年6月28日決定
事案の概要
児童相談所長が、未成年者の親権者である実母と養父の親権を2年間停止することを求めた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、児童養護施設に入所していた未成年者が親権者らの家で外泊をするようになった頃から、一時保護の措置がとられる頃まで、親権者らが重大な虐待行為を繰り返していたとしました。また、実母も養父も養育実績がほとんどなく、ともに虐待行為を行っていることから、未成年者を適切に養育することは期待できないと判断しました。
さらに、未成年者が親権者らを拒絶する気持ちが強いことも踏まえ、親権者らによる親権の行使は不適当であり、未成年者の利益を害することは明らかだとしました。そして、申立てを却下した第一審を取り消したうえで、親権者らの未成年者に対する親権を2年間停止することを認めました。
管理権喪失に関する裁判例
高松家庭裁判所 平成20年1月24日審判
事案の概要
未成年者が相続した土地を、親権者が勝手に売却しようとしていることに気づいた親権者の元配偶者が、未成年者の財産を守るため、親権者の管理権喪失を求めた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、未成年者が「土地を売却したお金の一部を大学の学費に使ってほしい」と主張したにもかかわらず、自らの債務の返済に充てたことや、未成年者が相続したそのほかの土地も無断で売却しようとしたことなどを、事実として認めました。
このような事実から、管理は適切ではなく、未成年者の財産を危うくしたとして、管理権を喪失させるという審判をしました。
親権喪失・親権停止・管理権喪失の手続きと流れ
親権喪失・親権停止・管理権喪失の各手続きの基本的な流れは、次のようになります。
- ①親権喪失・親権停止・管理権喪失の審判の申立て
申立先は、いずれも「子供の住所地を管轄する家庭裁判所」です。申立てが受理されたら、裁判所で審理が行われます。 - ②審理
裁判所が、審判を受ける親権者や、子供が15歳以上の場合は子供から直接話を聞きます。ただし、子供が15歳未満でも話を聞くことがあります。また、申立人には申立ての理由を聞き、状況を調査します。 - ③審判
審理の結果、親権喪失・親権停止・管理権喪失すべきかどうか判断し、審判をします。 - ④審判の確定
審判がなされてから2週間、誰も即時抗告(不服申立て)をしなければ、審判が確定します。
申立てができる人
審判の申立てができるのは、次に挙げる人たちです。親権喪失・親権停止・管理権喪失、どの審判でも共通となります。また、平成23年の民法改正によって、申立人の範囲が広げられました。
- 子供本人
- 子供の親族
- 未成年後見人
- 未成年後見監督人
- 検察官
- 児童相談所長
申立てに必要な書類・費用
審判を申し立てる際、必要になる書類と費用は以下のようなものです。ただし、個々の状況によって異なるケースもありますので、ご不安なときは、事前に申立先の家庭裁判所に問い合わせることをおすすめします。
【書類】
- 申立書
- 子供の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 申立人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 審判を受ける親権者の戸籍謄本(全部事項証明書)
※子供と同じ戸籍の場合は不要 - 審判を求める理由を示す資料
【費用】
- 収入印紙:800円分(子供1人あたり)
- 郵便切手:金額は裁判所によって異なる
審判にかかる期間
裁判所の調査によると、令和2年度の【親権喪失】と【親権停止】の審判の審理にかかった期間は、下表のとおりになっています。どちらも、6ヶ月以内に審理を終えたケースが多いことがわかります。
ただ、6ヵ月を超えるケースも珍しくなく、親権喪失では約30%、親権停止では約26%が、6ヶ月を超える期間を要しています。若干の違いではありますが、より慎重な判断が必要になる親権喪失の方が、長期化する傾向にあるといえるでしょう。
親権喪失 | 親権停止 | |
---|---|---|
1月以内 | 9 | 27 |
1月超え2月以内 | 11 | 39 |
2月超え3月以内 | 2 | 45 |
3月超え4月以内 | 14 | 47 |
4月超え5月以内 | 16 | 31 |
5月超え6月以内 | 13 | |
6月超え | 28 | |
合計 | 93 |
緊急性がある場合は「審判前の保全処分」ができる
審判の結果が出るまでには、ある程度の期間がかかります。そこで、虐待が深刻なケースなど、緊急性がある場合には、各審判と併せて「審判前の保全処分」を申し立てることができます。
審判前の保全処分が認められると、審判の結果が出てその効力が生じるまでの間、親権者の職務の執行を停止したり、職務代行者を選任したりしてもらえます。つまり、一時的に、親権者は親権や管理権を行使できなくなるということです。その間、親権者の代わりに親権や管理権を行使する“職務代行者”に誰がなるかは裁判所の判断で決められますが、申立人が選ばれることもあります。
保全処分に対する即時抗告
即時抗告とは、裁判所の決定に不満があるときに、上級の裁判所にもう一度審理してほしいと求める手続きです。例えば、親権喪失の審判と併せて「審判前の保全処分」を申し立てたところ、保全処分が却下されてしまった場合、申立人は納得いかないとして、即時抗告することを考えるでしょう。
親権喪失等の審判前の保全処分について、即時抗告ができる人は次のとおりです。
- 保全処分が“認容”された場合→保全命令を受けた親権者、その親族など
- 保全処分が“却下”された場合→申立人
ただし、職務代行者の選任の保全処分については、即時抗告をすることはできません。
即時抗告ができるのは、保全命令の告知を受けた日の翌日から2週間以内です。
なお、即時抗告がされたからといって、すぐに保全処分の執行が停止されるわけではありません。保全処分の執行を止めるためには、即時抗告に伴う執行停止の申立てを別途行わなければなりません。
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メールで相談する親権喪失や停止となった場合、子供の養育はどうなるのか?
父母の一方のみが親権を制限された場合には、制限されなかった他方が子供の養育等を行います。対して、父母がともに親権を制限された場合や、離婚して親権者が1人だった状態で親権を制限された場合には、親権者がいなくなってしまいます。
そうしたときには、「未成年後見人」が選任され、未成年後見人が子供の財産管理や身上監護を行います。未成年後見人については、以降で詳しくみていきましょう。
なお、親権を制限されても、法律上の親子関係がなくなるわけではありません。あくまでも影響するのは「親権」についてのみですので、子供を扶養する義務は残りますし、父母が亡くなったときには子供が相続権を持ちます。
未成年後見人とは
未成年者に対して親権を行う者がいないときなどに、未成年者の身の回りの世話をしたり、未成年者の財産を管理したりする者を、「未成年後見人」といいます。
未成年後見人は、家庭裁判所が様々な要素を考慮したうえで選任します。親族の中から選ばれるのが通常ですが、親族間でトラブルが生じることが予想される場合などには、弁護士を選任するといったケースもあります。
また、未成年後見人は複数人選任することが可能で、個人に限らず社会福祉法人等の法人が選任されることもあります。
未成年後見人を選任する流れ
一般的には、次のような流れで未成年後見人を選任してもらいます。
- ①未成年後見人選任の申立て
「未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所」に申し立てます。 - ②裁判所の調査
裁判所が、申立人や後見人候補者、子供との面接を行い、詳しい事情を聞きます。また、親族に書面を送付したりして、意見を確認します。 - ③審判
調査結果を踏まえて未成年後見人を選任し、選任した旨の「審判書」を送付します。 - ④初回報告書類を裁判所に提出
未成年後見人に選ばれた者は、「財産目録」や「年間収支予定表」等を作成のうえ、裁判所に提出する必要があります。また、提出期限は審判書を受け取ってから1ヶ月以内となっています。
財産目録とは、未成年者の財産の内容をまとめたものです。また、年間収支予定表とは、未成年者の定期的な収入・支出の内容をまとめたものをいいます。
申立てに必要な書類・費用
未成年後見人選任の申立て時には、主に次の書類と費用が必要です。
(※ご状況によっては、以下で挙げているもの以外が必要になることなどもあります。あらかじめ申立先の裁判所に確認しておくと安心です。)
【書類】
- 申立書
- 申立ての事情説明書
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 未成年者の住民票または戸籍の附票
- 後見人候補者の戸籍謄本(全部事項証明書)
※候補者が法人の場合は、法人の商業登記簿謄本 - 後見人候補者の住民票または戸籍の附票
- 後見人候補者の事情説明書
- 未成年者に対して親権を行う者がいないこと等を証明する書類
- 未成年者の財産に関する資料(例:不動産登記事項証明書、預貯金通帳の写しなど)
- 親族関係図
- 利害関係人からの申立ての場合:利害関係を証明する資料
- 親族からの申立ての場合:親族の戸籍謄本(全部事項証明書)
【費用】
- 収入印紙:800円分(未成年者1人あたり)
- 郵便切手:金額は裁判所によって異なる
親権喪失等の審判の取消しについて
親権喪失や停止、管理権喪失の原因となった事情が消滅した場合、審判を受けた親権者本人またはその親族は審判の取消しを求めることができます。
請求の結果、裁判所に「原因となった事情はなくなった」と判断され、審判の取消しが認められたら、制限されていた親権や管理権が復活します。
親権喪失、親権停止、管理権喪失についてのQ&A
- Q:
子供だけで親権喪失や停止の申立て手続きを行うことは難しいでしょうか?
- A:
子供だけで親権喪失や停止の申立て手続きを行うことは、現実的に考えて難しいです。子供本人が申立人になることは可能ですが、申立時には提出が必要な書類がいくつもあり、子供だけですべてを不備なく揃えるのはとても厳しいといえます。また、申立て後の手続きを適切に進めるのは、大人でも簡単なことではありません。
子供が親権喪失や停止の手続きに参加する際には、「子どもの手続代理人」制度を利用するといいでしょう。子どもの手続代理人とは、子供が家庭裁判所の調停・審判の手続きに参加するのをサポートしてくれる弁護士のことです。子供の意見や気持ちを確かめながら、代理人となって手続きを進めてくれます。
- Q:
離婚後、親権者が子供に会わせてくれません。親権停止を申し立てることはできますか?
- A:
「離婚後、親権者が子供に会わせてくれないから」という理由だけでは、親権停止の申立てをしても認められる可能性は低いでしょう。
親権停止が認められるのは、「親権者による親権の行使が困難または不適当であることにより、子の利益を害するとき」という要件を満たした場合です。例えば、子供が親権者から暴力を受けている、育児放棄をされている、といったケースで認められる可能性があります。
親の都合で子供に会わせてくれない場合、たしかにそれは親権者として適当な行為とはいえませんが、親権停止になるほどの事情だとは判断されにくいでしょう。
離婚後、親権者が子供に会わせてくれないときは、裁判所の「履行勧告」や「間接強制」などの手続きで、面会交流の実施を求めていくという方法があります。詳しくは、下記のページをご覧ください。
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- Q:
親権停止中でも養育費は支払わなければいけないのですか?
- A:
親権停止中でも、子供の養育費は支払わなければなりません。親権停止となっても、法律上の親子であることには変わらないからです。あくまでも親権の行使が一定期間できなくなるのであって、父母としての権利義務には影響しません。したがって、親権停止中も子供を扶養する義務を負い続け、養育費を支払うことになります。
下記のページでは、離婚後の養育費について詳しく解説しています。こちらもぜひご覧ください。
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親権喪失・親権停止・管理権喪失に関するお悩みは弁護士にご相談ください。
親権を制限する制度は、親の虐待などから子供を守るためにあります。とはいえ、今後の親子の関わり合いに影響すると考えられるため、どうするのが子供にとって最善なのか、悩まれる方も多いでしょう。なかでも親権喪失や停止は、子供と親を引き離すことになりますから、慎重に検討する必要があります。
親権喪失・親権停止・管理権喪失といった、親権を制限する制度についてお悩みのときは、ぜひ一度弁護士に相談してみてください。各方法について丁寧に説明をしてもらい、個別の状況に応じた適切なアドバイスを受けられます。また、ご依頼いただければ、必要な手続きをサポートしたり、代理人として代わりに手続きを進めていったりすることも可能です。
親権問題は、とても繊細な問題です。法律のプロである弁護士の力を借りながら、最善の解決策を探していきましょう。
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います
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メールで相談する- 監修:福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)