年金分割の手続きの種類や方法、必要書類を分かりやすく解説
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
年金分割制度とは、離婚したときに夫婦が婚姻期間中に納めてきた厚生年金記録を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です。
年金分割は、自動的に分割されるものではなく、離婚後に年金事務所に必要書類を持参して手続きをしなければいけません。
本記事では、年金分割の種類や年金分割の手続き方法など、「離婚時の年金分割」に関して詳しく解説していきます。
「年金分割制度」について、もっとよく知りたいという方は下記ページに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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年金分割の手続きは「合意分割」と「3号分割」の2種類
年金分割の手続きは「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
「合意分割」と「3号分割」について、下の表にまとめました。
合意分割 |
2007年4月1日以降、離婚または事実婚の解消をして、以下の条件に該当している場合、婚姻期間中の厚生年金記録を分割できる制度 【合意分割できる条件】 ・婚姻期間中の厚生年金記録があること |
---|---|
3号分割 |
国民年金の第3号被保険者であって、2008年5月1日以降に離婚または事実婚の解消をして、以下の条件に該当している場合、相手の厚生年金記録を2分の1ずつ分割できる制度 ・夫婦間での合意や裁判手続きは不要 【3号分割できる条件】 ・2008年4月1日以降、夫婦どちらかが国民年金の第3号被保険者であった |
按分割合とは、年金分割の対象となる年金のうち、どのくらいが受け取る側に渡されるのかの割合のことです。
「合意分割」と「3号分割」について、もっとよく知りたいという方は下記ページに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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年金分割の手続き方法①:合意分割
合意分割の手続きは次の流れとなります。
- ①情報通知書の取得
- ②年金分割についての話し合い
- ③年金分割の請求手続き
- ④標準報酬改定通知書の受け取り
それぞれ詳しく解説していきましょう。
1.情報通知書の取得
まず、「年金分割のための情報提供請求書」に必要事項を記入して、請求者の年金手帳または基礎年金番号通知書と婚姻期間が明らかとなる戸籍謄本などを添えて、「年金分割のための情報通知書」を請求します。
請求先は、基本的に請求者の住所地を管轄する年金事務所となり、離婚前でも離婚後でも、夫婦どちらか一方でも夫婦両方からでも請求は可能となります。
情報通知書には、氏名、生年月日、基礎年金番号、婚姻期間、対象期間標準報酬総額、按分割合の範囲、対象期間などが記載されています。
情報通知書を請求してから交付までに、およそ1週間から4週間ほどかかります。
「年金分割のための情報通知書」の必要書類などについて、もっとよく知りたいという方は下記ページに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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2.年金分割についての話し合い
年金分割のための情報通知書を受領したら、夫婦で年金分割をどうするのか、年金分割をするなら按分割合はどうするかなどについて話し合いましょう。年金分割の話し合いの時に確認する情報通知書に記載している項目は、主に以下になります。
- 対象期間標準報酬総額
- 按分割合の範囲
按分割合は夫婦で自由に決めることができますが、上限は2分の1です。
年金分割の計算方法は、情報通知書に記載している対象期間標準報酬額の夫分と妻分の合計額を出し、按分割合に応じて、夫と妻両方の分割後の対象期間標準報酬総額を算出します。
分割後の対象期間標準報酬総額に年齢、加入期間によって定められた乗率をかけると年金分割後の婚姻期間分の老齢厚生年金額がわかります。
「年金分割したときの計算方法」については具体的に下記ページに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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話し合いで合意できた場合
話し合いによって年金分割について合意ができた場合、その内容を明らかにすることができる書類を添付し、年金分割の請求手続きを行います。
明らかにすることができるものとは次のような書類です。
- ①公証役場で作成した公正証書
- ②公証役場で公証人の認証を受けた作成者の署名または記名押印のある文書(私署証書)
- ③当事者で作成もしくは年金事務所に置かれている所定の書式で作成した年金分割合意書
①②については、作成後、年金事務所に1人で行って年金分割の請求手続きを行うことができますが、③については、当事者二人共、もしくは当事者それぞれの代理人が年金事務所に行かなければいけません。
話し合いで合意できない場合
夫婦間の話し合いで合意できなかった場合やそもそも話し合いが出来なかった場合などは、家庭裁判所で「年金分割の按分割合を定める調停または審判」を申し立てします。
調停は裁判官や調停委員を交えて話し合いで決める手続きですが、審判はそれぞれの主張や提出した資料を考慮して裁判官が判断します。
離婚と違い、年金分割は調停を経ないといけないという調停前置主義の制度がありませんので、審判から申し立てることも可能となります。
離婚前であれば、離婚調停や離婚訴訟における付帯処分の手続きで年金分割の按分割合を定めます。
3.年金分割の請求手続き
夫婦間で話し合いを合意した、もしくは調停や審判などの裁判所の手続きで決めた場合は、年金分割の請求手続きを行います。
夫婦双方、または夫婦のどちら一方が「標準報酬改定請求書」に按分割合を明らかにする書類を持参のうえ、離婚をした日の翌日から2年以内に年金事務所に行って手続きする必要があります。
年金分割は自動的に行われませんし、情報通知書の請求のみでは年金分割されませんのでご注意ください。
合意分割の必要書類
合意分割をする場合、離婚をした後に、次の書類を年金事務所に直接持参もしくは郵送して手続きを行います。
- 標準報酬改定請求書
- 個人番号カード(マイナンバーカード)・・・請求書に個人番号(マイナンバー)を記入する場合
- 基礎年金番号通知書または年金手帳などの基礎年金番号を明らかにすることができる書類・・・請求書に基礎年金番号を記入する場合
- 婚姻期間を明らかにすることができる戸籍謄本など(請求日から6ヶ月以内に交付され、婚姻日および離婚日が確認できるもの)
※事実婚関係にある期間を含む場合は、その事実を明らかにすることができる住民票など - 当事者それぞれの生存が証明できる請求日から1ヶ月以内に交付された戸籍謄本、住民票など
- 年金分割の割合を明らかにすることができる書類
- 話し合いで定めた場合・・・公正証書、公証人の認証を受けた私署証書、年金分割合意書など
※ただし、年金分割合意書の場合は元夫婦(それぞれの代理人でも可)が年金事務所に直接、合意書を持参しなければいけません。必要書類も本人確認ができる運転免許証、パスポートなどが必要。代理人の場合は、上記書類に加えて委任状と印鑑証明書も必要。 - 裁判所による手続きで定めた場合・・・審判書・判決書および確定証明書、調停証書・和解調書など
- 話し合いで定めた場合・・・公正証書、公証人の認証を受けた私署証書、年金分割合意書など
4.標準報酬改定通知書の受け取り
通常、年金事務所に必要書類を提出してから約2~3週間程度で、「標準報酬改定通知書」が当事者それぞれに届き、手続きの完了が知らされます。通知書には、年金分割により変わった年金記録、つまり年金分割の結果が記載されています。
年金分割の手続き方法②:3号分割
3号分割の場合は、離婚した後に請求者が1人で年金事務所に行って分割請求の手続きができます。
按分割合は一律2分の1となります。
請求期限は、合意分割と同様、離婚した日の翌日から2年以内です。
手続きの流れは合意分割と違い、夫婦間での話し合いや裁判の手続きでの合意は不要となりますので、次のようになります。
- ①情報通知書の取得
- ②年金分割の請求手続き
- ③標準報酬改定通知書の受け取り
3号分割の必要書類
合意分割の場合と必要書類はほとんど変わりませんが、夫婦間での話し合いや裁判の手続きでの合意は不要ですので、年金分割の割合を明らかにすることができる書類(公正証書、年金分割合意書、審判書など)は必要ありません。
- 標準報酬改定請求書
- 個人番号カード(マイナンバーカード)・・・請求書に個人番号(マイナンバー)を記入する場合
- 基礎年金番号通知書または年金手帳などの基礎年金番号を明らかにすることができる書類・・・請求書に基礎年金番号を記入する場合
- 婚姻期間を明らかにすることができる戸籍謄本など
(請求日から6ヶ月以内に交付され、婚姻日および離婚日が確認できるもの
※事実婚関係にある期間を含む場合は、その事実を明らかにすることができる住民票など - 当事者それぞれの生存が証明できる請求日から1ヶ月以内に交付された戸籍謄本、住民票など
※離婚をしていないが事実上離婚状態にあって、3号分割を請求する場合はその状態が明らかとなる書類(住まいが異なることがわかる住民票など)
合意分割と3号分割の両方が適用される場合の手続き方法
平成20年4月1日以降について、第3号被保険者(被保険者に扶養されている専業主婦(主夫)やパート)である方は3号分割を請求することができます。
婚姻日から平成20年4月1日より前については、第3号被保険者の期間があっても3号分割は請求できず、合意分割によることになります。
婚姻期間によって、合意分割できる期間と3号分割できる期間が混在する場合は、合意分割の請求をしたときに、3号分割の請求もあったものとみなされ、別途手続きする必要はありません。
また、合意分割は請求せずに3号分割のみ請求することも可能です。
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メールで相談する年金分割の手続きに関するQ&A
- Q:
年金分割の手続きを忘れていました。離婚後いつまでなら可能ですか?
- A:
年金分割の手続きは、離婚をした日の翌日から2年以内となります。
期限を過ぎてしまうと手続きができなくなります。ただし、2年経過する前に調停や審判の手続きを行った場合は、調停の成立日または審判の確定日の翌日から6ヶ月を過ぎるまで年金分割を請求することが可能となります。
なお、基本的には離婚をした日の翌日から2年以内ですが、元配偶者が死亡してしまうと、死亡から1ヶ月以内に手続きを行う必要があります。
したがって、離婚をしたら、年金分割の手続きは速やかに行うことが大切です。
- Q:
年金分割の手続きをしないとどうなりますか?
- A:
年金分割の手続きをしないと、年金が受給できる年齢になったときの年金の受給額に大きく影響します。
特に婚姻期間が長く、専業主婦(主夫)だった期間が長い場合は、年金分割を行わないと、将来に受け取れる年金額が、年金分割を行った場合と比べて、大きく減少してしまいます。
高齢になれば、自らの力で十分に働くことも難しくなりますので、年金が生活するための大事な糧となります。
したがって、離婚するときは年金分割の手続きを行うようにしましょう。
- Q:
合意分割についての公正証書を作成する際、夫婦の一方が公証役場へ行けない場合はどうしたら良いですか?
- A:
夫婦の一方が公証役場に行けない場合は、本人が指定した弁護士などの第三者の代理人に手続きを任せることが可能です。
基本的には、公正証書は本人の意思で作成したことを担保されると考えられますので夫婦揃って公正証書に行くのがルールです。よって、代理人で公正証書を作成するときは、事前に公証人に事情を伝えて了承を得ておくことと委任状を準備することが必要です。
なお、夫婦のどちらか一方が代理人になることは認められません。代理人一人が夫婦両名の代理人になることもできません。
ですので、夫婦で公正証書を作成するときは、二名の者が公証役場へ行くことになります。
- Q:
年金分割を代理人に任せる場合、どのような人に依頼すればいいでしょうか?
- A:
年金分割の書類の作成や提出の代行は、行政書士や司法書士でも可能となります。
しかし、配偶者と直接協議できるのは、弁護士だけです。離婚時に年金分割をするのか?年金分割をするのであれば、合意分割の割合はどうするのか?などを相手と直接話し合えるのは弁護士のみが代理権限をもっています。
もちろん、年金分割の書類の作成や提出、公正証書の作成なども一任していただけますので、ぜひ弁護士に依頼することをおすすめします。
- Q:
離婚調停の際に、年金分割の割合(按分割合)についても話し合うことは可能ですか?
- A:
離婚調停の際に、年金分割の按分割合についても話し合うことは可能です。
その場合は、離婚調停の申立て時に「付随申立て」というかたちで申し立て、離婚するかどうかと併せて、年金分割の按分割合についても話し合いたいと求めます。具体的には、裁判所に提出する「申立書」内で、年金分割の按分割合に関する部分に○を付け、希望する按分割合を記載します。
年金分割の手続きでわからないことがあれば、弁護士に相談してみましょう
年金分割の請求は「離婚した日の翌日から2年」と期限がありますので、「手続きを忘れた」、「めんどくさい」といって請求を放置しておくと、請求期限が過ぎてしまい、老後の暮らしに大きく影響します。
年金分割がよくわからない方やお困りのある方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
複雑でよくわからない年金分割のことを弁護士がわかりやすく説明します。
そのほかにも相手との協議や裁判所の手続きなど年金分割に関する必要な手続きもサポートさせていただきます。
年金分割を行うことは、ご自身が将来もらえる年金額を増やすことに繋がる大切なものです。
まずは、お気軽にお問合せください。
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メールで相談する- 監修:福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)