婚姻費用請求の審判とは?流れや効力、聞かれることについて
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
婚姻費用について、まずは夫婦間で話し合って決めることになりますが、夫婦間で合意できなければ、婚姻費用請求の調停・審判で決めることになります。
調停では、あくまでも話し合いで合意を目指す手続きですので、合意できなければ、調停不成立となり、自動的に審判へ移行します。
審判では、夫婦の合意がなくとも裁判所が婚姻費用について判断します。
したがって、審判では有利になるような証拠の提出や合理的な法的主張といった高度な対応が必要となります。
そこで本記事では、“婚姻費用分担請求の審判”での流れや効力、審判時に聞かれることなどを詳しく解説していきます。
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婚姻費用分担請求調停・審判の申立て
婚姻費用の請求とは、夫婦と経済的に自立していない子供にかかる婚姻生活を維持するために必要な費用を配偶者に請求することをいいます。
通常、夫婦のうち収入の少ない方が収入の多い方に請求します。
婚姻費用の請求は次のような順番で行います。
① 夫婦間で話し合う
② 婚姻費用分担請求調停
③ 婚姻費用分担請求審判
婚姻費用分担請求調停は、相手方の住所地を管轄とする家庭裁判所、または当事者間で合意した家庭裁判所に申し立てて、裁判官や調停委員を交えて婚姻費用について話し合う手続きです。
調停で話し合っても合意できなければ、調停不成立となり、審判へ自動的に移行します。
婚姻費用分担請求審判は、必要な審理を行ったうえで一切の事情を考慮して、裁判官が婚姻費用について審判を下します。
なお、調停や審判で婚姻費用について具体的に決まれば、支払いが滞ったときには、強制執行をして、相手の財産を差し押さえることが可能です。
婚姻費用分担請求については、下記ページでも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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調停が不成立の場合は審判に移行する
調停を申し立てたけれども「相手が支払いを頑なに拒否する」、「相手が収入に関する提出をしない」、「そもそも相手が調停に来ないので話し合えない」などの理由で調停不成立となれば、別途手続きすることなく、自動的に審判へ移行します。
したがって、審判になっても新たに裁判所に費用を収める必要はありません。
審判では裁判所が結論を出す
調停は、裁判官や調停委員を介して、あくまでも“話し合い”で合意を目指すのに対して、審判は、当事者それぞれから聴取した事情や提出した資料など一切の事情を考慮して裁判所が結論を出します。
したがって、調停では、当事者間で合意ができなければ、調停不成立という結果で何も決まりませんが、審判は、最終的に審判という命令により相手の合意がなくても婚姻費用に関する結論が出されます。
婚姻費用について合意ができずに調停が長引いている場合は審判に移行することで早期の解決が図れる場合もあります。
審判を先に申し立てることはできない?
通常は、まず調停を申し立てて、調停が不成立となった場合に審判へ移行し審判手続きを始めることになります。
しかし、婚姻費用分担請求の場合は、調停を行わずに、いきなりはじめから審判を申し立ててスタートできる場合もあります。
例えば、婚姻費用の支払いを受けないと生活が困窮しているのに、相手が悪意をもって調停を長引かせようとしてくるのが明らかな場合が挙げられます。そのような場合は、審判の申立てと審判前の保全処分の申立てを同時に行えば、審判の結果が出るまでの間に仮に支払いの命令をしてもらえます。
ただし、調停をせずに審判を始められる場合は限られています。いきなり審判を申し立てても、緊急性がないと裁判所に判断された場合は「まずは調停で話し合いから始めましょう」と促されて調停に移行されてしまう場合もあります。
婚姻費用分担請求調停から審判確定までの流れ
婚姻費用分担請求調停が不成立となってから、審判手続きに移行して審判結果が出されるまでの流れは次のとおりです。
- ①調停不成立後、審判手続きの説明を受けて、審問期日の指定を受ける
通常、審問期日は調停不成立となった日から2週間から1ヶ月程度以内に設定されます。
当事者双方ともに追加主張がなく、十分な資料が集まっている場合には、調停終了後にそのまま審判手続きが行われることもあります。 - ②追加の主張があれば、主張書面や証拠を提出する
審問期日の原則1週間前までに裁判所と相手方に提出します。 - ③審問期日に裁判所で審問を受ける
調停期日では当事者別々に部屋に呼ばれますが、審問期日では、当事者双方が同時に部屋に呼ばれて、裁判官から審問を受けます。 - ④次回の審問期日を決める
裁判官が審判できると判断するまで審問期日が続きます。必要があれば、追加の主張書面や証拠を提出することもあります。 - ⑤審判期日
最後の審問期日から1~2ヶ月後に裁判所が審判を告知します。
当事者双方は裁判所に行く、もしくは郵送してもらうなどの方法で審判書を入手することになります。 - ⑥審判の確定もしくは即時抗告の申立て
審判結果に当事者双方が納得して不服申立てをしなければ、審判の告知を受けてから2週間が経過すると、審判は確定します。
審判結果に納得できない場合は、審判の告知を受けた翌日から2週間以内に不服申立て(即時抗告)を行い、高等裁判所に判断を求めます。
審判にかかる期間
一般的に、初回の審問期日は、調停不成立後から2週間~1ヶ月以内に開催されます。
比較的短期間で終わる場合、審問期日は1~2回開催され、最後の審問期日から1~2ヶ月後に審判が告知されるので、審判にかかる期間は、およそ調停不成立となってから半年ぐらいが目安になります。
ただし、上記の例はあくまで短期間で終わる場合の目安です。収入の変動がある場合や、双方に追加の主張がたくさんある場合など、家庭ごとの事情によっては裁判官が審判できると判断するまでに1年以上かかるケースもあり得ます。
審判の効力
確定した審判の内容は、確定判決と同様の効果があります。
したがって、審判で決まった婚姻費用が支払われなければ、強制執行ができます。
婚姻費用の強制執行には、「直接強制」と「間接強制」の2種類があります。
- 直接強制・・・相手の給与や預貯金などの財産を差し押さえて強制的に婚姻費用を回収する方法
- 間接強制・・・期限までに婚姻費用を支払わなかった場合に、婚姻費用とは別に「間接強制金」を課して、自発的に婚姻費用の支払いを促す方法
いきなり強制執行を行うことにためらいを感じる場合は、「履行勧告」や「履行命令」を裁判所に発令してもらい、支払いを促す方法もあります。
履行命令に従わなかった場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
婚姻費用の強制執行について、下記ページでさらに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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婚姻費用分担請求の審判で聞かれること
婚姻費用分担請求の審判では、特に次のような点を聞かれることが多いです。
- 夫婦それぞれの収入
- 子供の有無、人数、年齢
- 現在の生活状況
- ●別居した理由、経緯、別居期間
- 希望する婚姻費用の金額、支払期間 など
上記の内容を聞くのは、婚姻費用の金額を判断するにあたっては、裁判所が公表している「婚姻費用算定表」に夫婦それぞれの収入、子供の人数・年齢をあてはめて、婚姻費用の金額を算出するのが家庭裁判所の基本的な手法だからです。
裁判所は、婚姻費用算定表で算出した金額に加え、家庭ごとの事情や要望なども考慮して婚姻費用について判断します。
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メールで相談する審判結果に納得できないなら不服申し立て (即時抗告)
審判結果に納得できない場合は、不服を申し立てることにより高等裁判所に再度審理してもらえます。この手続きを正式には「即時抗告」といいます。
即時抗告は、いつでもできるわけではなく、審判書を実際に受け取った翌日から2週間以内に申し立てなければいけません。
ただし、原審判より不利な結果になるおそれもありますので、即時抗告するかどうかは慎重に検討する必要があります。
また、ご自身が審判結果に納得したとしても、相手が納得できないとして即時抗告をした場合は、即時抗告審の対応をしなければいけません。
不服申し立て (即時抗告) の手続き
即時抗告を申し立てるにあたって、申立期限、申立先、費用、必要書類は下記表のとおりとなります。
申立期限 | 審判が告知された日の翌日から2週間以内 |
---|---|
申立先 | 審判を下した家庭裁判所 (再審理を行うのは高等裁判所) |
費用 | ・申立費用としての収入印紙:1800円分 ・連絡用の郵便切手:各裁判所によって異なるので、要確認 |
必要書類 | ・抗告状 ・即時抗告の理由を証する証拠書類 |
審判前に少しでも早く婚姻費用を受け取りたい場合
審判の結果が出るまで待っていると生活費の支払いがないために生活が困窮しまう場合があります。
少しでも早く婚姻費用を受け取りたいと考える場合に、婚姻費用の仮払い請求をする方法があります。具体的には、審判の結果がでるまでに「審判前の保全処分」を申し立てるという方法です。
裁判所が「審判前の保全処分」を行う必要性を認めると、裁判所が相手に「月額●万円を仮に支払え」と命令を出します。その後相手が支払わない場合には、強制執行も可能です。
ただし、裁判所に審判前の保全処分で婚姻費用の仮払いを認めてもらうには、「蓋然性が高いこと」と「生活上における差し迫った必要性があること」を疎明する必要があります。
不利な婚姻費用の審判に、弁護士がサポートして即時抗告をした結果、未払い分100万円と月額6万円の婚姻費用が認められた事例
【事案概要】
ご依頼者の夫は、婚姻費用の審判で未払い金約100万円と将来分月額6万円の支払い義務を認められたにも関わらず、即時抗告を申し立てて、審判が確定しないままとなりました。
ご依頼者は、即時抗告についてご自身で対応するとのことで、当事務所にそのサポートを依頼されました。
【弁護士方針・弁護士対応】
夫には代理人がおり、長期間の家庭内別居と婚姻関係の破綻を根拠として、婚姻費用請求自体が認められないと主張していました。
当方は過去の高等裁判所の決定内容を踏まえ、婚姻関係が破綻していても婚姻費用請求が認められる旨、ご依頼者に説明しました。
【結果】
ご依頼者の主張が全面的に採用され、夫が申し立てた即時抗告は棄却され、未払金と将来分の婚姻費用は審判の内容が維持されました。
即時抗告審は、法的な手続きの理解や法的に合理的な主張はどのようなものなのかなど高度な専門知識が必要となります。
今回のケースはあくまでもサポートでしたが、ご依頼者にとって満足のいく結果となり、感謝の言葉をいただきました。
弁護士からアドバイスを受けることによって、婚姻費用の問題を早期に解決できることもあります
婚姻費用は、別居後、経済的に安定した生活を送るために必要な、大事なお金です。
早期に婚姻費用の問題を解決させるためには、まず弁護士にご相談ください。
調停や審判など裁判所の手続きで婚姻費用について争っている場合、弁護士は適正な婚姻費用を算出して、必要となる理由を法的観点から主張します。
そのため、弁護士に相談すると有利に解決できる可能性が高まります。
相手から即時抗告を申し立てられた場合や、即時抗告を申し立てたい場合は、対応に高度な法律的知識が必要になるうえ、期限が厳格で手続きも煩雑であるため、弁護士に依頼して進めることを強くお勧めします。
できるだけ早期に有利な結果を得るためにもぜひ弁護士を頼ってください。
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- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)