離婚の財産分与による不動産の名義変更|ローンがある場合の注意点や手続きの流れ
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
離婚時、家や土地などの不動産を財産分与する場合、不動産の名義変更が必要になるケースがあります。例えば、夫名義であった家を財産分与し、妻が受け取ることになったら、夫名義から妻名義に変更することになるでしょう。
本記事では、不動産の財産分与に伴う名義変更について、なかでも「家」に関する内容を重点的に解説していきます。家のローンが残っているときは、名義変更する際に特に注意が必要です。この点についても解説していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
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財産分与による不動産の名義変更の必要性
離婚時の財産分与によって、例えば「夫の名義となっている家に、夫ではなく妻が住み続けることになった場合」などには、不動産の名義を夫から妻へと変更する必要があります。
名義変更は、基本的に元の所有者と新しい所有者、つまり元夫婦が共同で行わなければならない手続きです。しかし、離婚して時間が経ってからでは、元配偶者が協力してくれなかったり、連絡がとれなくなったりすることもあるかと思います。離婚する際に財産分与の取り決めをしたら、離婚後、速やかに名義変更の手続きを行うようにしましょう。
なお、名義変更は義務ではありません。財産分与により、名義人ではない方が不動産を受け取ることになっても、名義変更せずにそのままの状態にしておくこともできます。ただし、名義変更をしないでいると、後々トラブルになるおそれがあります。起こり得るトラブルとは、具体的にどのようなものなのか、続けて確認していきます。
不動産の名義変更をしないことで起こり得るトラブル
ローン完済時に所有者と認められないおそれがある
まずは、ローンを支払う人(ローン名義人)と、家の所有者(所有名義人)が違っている場合に起こり得るトラブルをご紹介します。
【家のローン名義人が夫】【家の所有名義人が妻】となっていたケースにおいて、財産分与によって夫が家を受け取ったとします。夫としては、自分が住む家だからと、ローンを懸命に支払うことでしょう。しかし、夫がローンを完済したとしても、名義変更をしていなければ家の所有者は妻のままであり、夫は家の所有者とは認められません。そのため、妻から「私に所有権がある」と主張され、トラブルになってしまう事態も起こり得ます。
知らないうちに勝手に売却されてしまうおそれがある
財産分与によって家を受け取ることになったとしても、名義変更をしておらず、家の名義が元配偶者のままとなっている場合には、知らないうちに家を勝手に売却されてしまうおそれがあります。家が元配偶者の単独名義なら、元配偶者は自分一人で自由にその家を売ることができるからです。
第三者に所有者として扱われるのは、家の名義人です。実際に住んでいるのは自分でも、元配偶者が名義人となっていたら、家を買った第三者に対し、居住権を主張するのは難しいでしょう。
名義人が住宅ローンを払えなくなった場合に家を失うおそれがある
家の所有名義人・ローン名義人と、財産分与で家を受け取った人が異なっているケースで、名義変更せずにいると、名義人が住宅ローンを払えなくなった場合に家を失うおそれがあります。
住宅ローンの滞納が続くと、その家は競売にかけられ、差し押さえられてしまうでしょう。その結果、第三者に落札されたら、強制的に家を出て行かなくてはならなくなります。
ここで、家の所有名義人だけを自分(住み続ける方)に変えれば、ローン名義人となっている元配偶者がローンを払えなくなっても所有者は自分になるので、家を失わずに済むのでは?と考える方もいるでしょう。しかし、ローンが残っている状態で、所有名義人だけを変えることには注意が必要です。詳しくは、次項目で解説していきます。
住宅ローンが残っている場合の名義変更の注意点
住宅ローンが残っている家の場合には、名義変更は難しくなることが予想されます。というのも、住宅ローンを組んだ金融機関等が、家の名義変更を承諾しない可能性があるからです。
家の名義(所有名義)を変更する手続きは法務局で行うものであり、住宅ローンの名義とは別ものです。そのため、金融機関等に知らせずに家の名義変更をすることも、事実上は可能です。しかし、金融機関等の承諾を得ずに勝手に名義変更をした場合、契約違反だとして、残っている住宅ローンを一括で払う必要が生じるおそれがあります。
また、後のトラブル回避のためにも、家の名義人(所有名義人)と住宅ローンの名義人は同じであることが望ましいです。家の名義(所有名義)だけではなく、例えば次のような方法で、住宅ローンの名義も変更することを検討しましょう。
住宅ローンの借り換え
新たに住宅ローンを組み直す方法です。例えば、夫から妻に住宅ローンの名義人を変えたいのなら、妻を名義人として新たな住宅ローンを組み、その貸付金で夫が名義人となっている住宅ローンの返済をします。
ペアローンの場合
1つの家に対し、夫婦それぞれが住宅ローンを組むことを、「ペアローン」といいます。財産分与によって夫婦のどちらか一方が家を受け取ることになったら、ペアローンから、受け取る側が単独でローンを組むかたちに変更したいと望むでしょう。
しかし、返済能力の不安から、金融機関等はなかなか承諾しないことが予想されます。そこで一つの方法として考えられるのが、「住宅ローンの借り換え」です。前述したとおり、新たに住宅ローンを組み直すという方法ですが、審査が通り、新たに住宅ローンを組んだ者の単独債務にできれば、ペアローンを解消して一本化することが可能になります。
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メールで相談する家の名義変更手続きの流れ
財産分与における家の名義変更の手続きは、主に次のような流れで進めていきます。
- ①財産分与の取り決めをする
- ②名義変更のために必要な書類を集める
- ③「登記申請書」を作成する
- ④作成した「登記申請書」と集めた必要書類を法務局に提出し、登記の申請をする
(※申請先は、家の所在地を管轄している法務局) - ⑤申請が受理されたら登記の手続きが完了する
→名義変更後の「登記識別情報通知」(従来の「権利証」に代わるもの)を受け取る
登記(ここでは不動産登記を指します)とは、建物や土地などの不動産がどこに所在するか、所有者は誰か、といった情報を記録することをいい、この記録は法務局で管理されています。そのため、家の所有者を変えたいなら、登記の申請が必要になるのです。申請方法には、次の3種類があります。
- 窓口で申請
- 郵送で申請
- オンラインで申請
このなかで一般的に多く利用されるのは、「窓口で申請」です。なお、財産分与に伴い名義変更をするときは、基本的に元夫婦が共同で登記の申請を行わなければなりません。
名義変更の必要書類
財産分与によって夫婦の一方が家を受け取ることになり、家の名義変更をするときは、法務局に次の書類を提出しなければなりません。なお、個別の事情によっては必要書類が異なる場合もあります。
- ・登記申請書
- ・登記原因証明情報
<例>離婚協議書(財産分与の取り決め内容が記載されているもの) - ・戸籍謄本(離婚の記載があるもの)
- ~以下、元の所有者が揃える書類~
・固定資産評価証明書 - ・印鑑証明書(※3ヶ月以内に発行されたものを提出してください)
- ・登記済権利証または登記識別情報通知
- ~以下、新しい所有者が揃える書類~
・住民票の写し(※マイナンバーが記載されていないものを提出してください)
名義変更にかかる費用
家の名義変更をする際には、主に次の費用がかかります。
- 必要書類の取得費用
戸籍謄本なら450円、印鑑証明書・住民票の写しなら300円(※自治体によって異なる場合もあります)といったように、名義変更に必要な書類を取得するための費用がかかります。 - 司法書士等への依頼費用
名義変更の手続きを司法書士等の専門家に依頼した場合には、司法書士等に支払う報酬や手数料といった費用が必要です。金額は、依頼する司法書士等によって異なります。
財産分与による名義変更に関する税金
家の名義変更を行うにあたり、税金がかかることがあります。必ずかかる税金と、場合によってはかかる税金とに分けて、解説していきます。
【必ずかかる税金】
・登録免許税
法務局に登記の申請を行うときに納付しなければなりません。基本的には現金納付ですが、金額によっては収入印紙で納付できるケースもあります。財産分与の場合、金額は、家の固定資産税評価額に2%をかけて算出します。
【場合によってはかかる税金】
- 譲渡所得税
財産分与時の家の評価額が、購入時の価格よりも高くなっている場合にかかります。課せられるのは、家を渡した側です。 - 不動産取得税、贈与税
財産分与で家を受け取ったのなら、基本的にはかかりません。しかし、夫婦の収入や共有財産などを考慮しても、家を含めて財産分与によって受け取った財産が多すぎると判断された場合には、例外的に不動産取得税や贈与税がかかる可能性があります。課せられるのは、家を受け取った側です。
相手が名義変更の手続きに協力してくれない場合
家の財産分与に伴う名義変更の手続きは、離婚後、基本的に元夫婦が共同で行わなければなりません。しかし、財産分与の内容に不満がある、元配偶者と関わりたくないなどの理由から、相手が連絡に応じてくれなかったり、手続きに協力してくれなかったりする場合もあるでしょう。
こうしたケースで名義変更の手続きを進めていくには、弁護士に依頼することが対処法の一つとして考えられます。弁護士が代理人となって交渉すれば、相手は「面倒なことは避けたい」と考え、名義変更の手続きに協力してくれる可能性があります。
また、仮に交渉での解決ができなかったとしても、裁判を行い、名義変更の登記手続きをするようにとの判決を求めて、弁護士が適切に主張・立証していきます。そして、登記手続きすべきことを命じる確定判決を得たときは、単独で登記の申請をすることができます。
財産分与による名義変更に関するQ&A
- Q:
自宅を共有名義のまま離婚をしたらどうなる?
- A:
自宅を夫婦の共有名義のまま離婚した場合、自宅の売却等をするためには、相手の同意を得る必要が生じます。つまり、別れた元配偶者とやりとりしなければならないということです。自分の持ち分だけを売却することも可能ですが、一部だけを購入したいと思う買い手は少ないでしょう。
自宅を夫婦の共有名義のままにしておくことにはこうしたデメリットがありますので、共有名義は解消することをおすすめします。具体的には、法務局に登記の申請をして、財産分与によって自宅を受け取る者の単独名義に変更します。
- Q:
離婚前に名義変更をすることは可能?
- A:
夫婦間で贈与すれば、離婚前に名義変更をすることはできますが、財産分与によって所有者を変えるという場合は、離婚前に名義変更をすることはできません。財産分与に基づく名義変更は、離婚が成立してから行えるようになります。
ただ、離婚後、名義変更の手続きをするには相手の協力が必要です。相手が協力してくれない事態も起こり得ますので、財産分与の取り決めをしたらその内容を書面にまとめ、「名義変更の手続きをする」旨も記載しておくといいでしょう。
- Q:
離婚の財産分与で家を子供名義にすることは可能?
- A:
離婚の財産分与に伴い、家を子供名義に変更することは可能です。ただし、この場合、通常、贈与税がかかってきますのでご注意ください。
家を財産分与し、夫から妻に(または妻から夫に)名義変更をする場合は、贈与ではなく、夫婦間での財産の清算と考えられるため、基本的に贈与税はかかりません。ですが、親から子供に名義変更をする場合は、贈与とみなされ、通常、贈与税がかかります。
財産分与による名義変更についてわからなければ弁護士にご相談ください
不動産の名義変更には、様々な書類の準備や、法務局での登記の申請手続きが必要になるなど、非常に手間がかかります。元配偶者が名義変更の手続きに協力してくれない場合には、裁判を行うことになるケースもあるので、ご不安な方は弁護士の力を借りてみてはいかがでしょうか。弁護士が間に入り、あなたの代わりに相手と名義変更に関して交渉していきます。また、裁判では、代理人となって出廷することが可能です。
離婚時の財産分与によって、家や土地などの不動産を受け取った(渡した)ときは、あとでトラブルにならないよう、きちんと不動産の名義変更をしておきましょう。「名義変更をしたいのに相手が協力してくれず、どうしたらいいのかわからない…。」などでお悩みのときは、まずは弁護士にご相談ください。
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- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)