内縁関係を解消する際に財産分与はできるのか
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
離婚する際には、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、夫婦間で分け合う「財産分与」ができます。それでは、内縁関係の場合、関係を解消する際に同じように財産分与はできるのでしょうか?「結婚しているわけではないから、できないのでは…」と考える方もいるかもしれませんが、内縁関係を解消するときも、財産分与はできます。
本記事では、内縁関係を解消する際の財産分与について詳しく解説していきます。対象となる財産や、財産分与の方法など、内縁関係の解消に伴い、財産分与をするときに知っておいてほしい内容をご紹介しますので、しっかりと理解を深めていきましょう。
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内縁関係を解消するときに財産分与は認められる
内縁関係は、「婚姻に準ずる関係」であるとして、一定の範囲で法的保護を受けられるものとされています。つまり、内縁関係でも、結婚している夫婦と同じように認められる権利があるということです。
その一つが「財産分与」を請求する権利であり、内縁関係を解消するときには、財産分与することが認められています。分け合う割合も、法律婚の場合と変わらず、基本的に2分の1となります。
ただし、当然のことながら、そもそも内縁関係になければ財産分与はできません。裁判所に内縁関係の成立が認められるには、「双方に婚姻の意思があること」と「結婚している夫婦同然の共同生活を送っていること」の2つの条件を満たす必要があります。詳しくは、下記の記事をご覧ください。
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内縁の夫婦の一方が死亡した際も財産分与はできる?
内縁の夫(妻)が死亡し、関係解消となった場合には、財産分与することはできず、内縁の夫(妻)が持っていた財産は、相続人が受け取ることになります。この点、結婚していれば、夫(妻)は相続人になることができますが、内縁関係の場合、内縁の夫(妻)は相続人になることはできません。
「自分が死んだとき、遺産は内縁の夫(妻)にあげたい」とお考えなら、生前に遺言書を作成しておきましょう。内縁の夫(妻)に遺産を与える旨の記載をしておけば、遺言書が無効にならない限り、内縁の夫(妻)に遺産を受け取らせることができます。ただし、相続人が「遺留分を侵害された」と主張し、金銭の支払いを求めてくる可能性はあります。
なお、相続人がすべて死亡している、相続人全員が相続放棄をしているなどで、相続人がいないケースもあるでしょう。このようなケースでは、内縁関係にある者が「特別縁故者」(民法958条の3)に該当し、遺産の一部または全部を受け取れる可能性があります。
財産分与するには内縁関係を証明する必要がある場合も
財産分与を請求したところ、相手から「内縁関係にはない」などと否定されることがあります。内縁関係にあったかどうかで争いになったら、財産分与するためには、内縁関係にあったことを証明しなければなりません。
内縁関係を証明するうえで重要になるのは、お互いに婚姻の意思があり、結婚している夫婦と同じような生活をしていたという状況を明らかにすることです。証明する際に役立つ可能性のある証拠は、例えば次のような書類です。
- 結婚指輪
- 結婚式を開催した事実
- 賃貸借契約書
- 健康保険証
- 住民票
また、書類だけではなく、同居期間の長さや、親族や友人たちから夫婦として扱われているなどの客観的事情も、裁判所が内縁関係について判断する際には考慮されますので、これらの点もアピールしていきましょう。
内縁関係の証明方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
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内縁関係解消時に財産分与の対象となる財産
内縁関係を解消する際、財産分与の対象となるのは、内縁の夫婦として過ごしてきた間に、夫婦で協力して形成・維持してきた財産です。具体的な財産の種類は、主に次のとおりです。どちらの名義になっていたかは関係ありません。
- 現金、預貯金
- 不動産(家や土地など)
- 車
- 保険
- 有価証券
- 高価な美術品
なお、相続して得た財産や、内縁関係になる前から持っていた財産などは、その人個人の財産となるので、財産分与の対象にはなりません。
また、「いつ時点で有していた財産が対象になるのか?」と気になる方もいるかと思いますが、内縁関係の場合は「内縁関係を解消した時点」です。解消するのに何か届出が必要になるということはなく、内縁関係を解消する意思を相手方に表示した時点が、基準となります。その点で、夫婦同然の共同生活を送らなくなれば、その時点で内縁関係は解消したと考えられることが多いでしょう。
内縁関係解消時の財産分与の方法
内縁関係の解消時に財産分与する方法として、一般的にまず初めに行うのが、「当事者間での話し合い(協議)」です。お互いに合意できれば、財産分与することができます。ただ、口約束だけで完結させてしまうと、あとでトラブルになる可能性も否めないので、合意して決めた内容は書面に残しておくといいでしょう。
当事者間の話し合いでは解決できそうにない場合は、次項目で紹介する「内縁関係調整調停」を行い、第三者を通して話し合い、内縁関係の解消と財産分与を併せて決めていくという方法があります。
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メールで相談する内縁関係調整調停について
内縁関係調整調停とは、家庭裁判所の調停委員が間に入り、当事者それぞれから話を聞き、解決に向けて提案するなどして、話し合いを進める手続きのことです。成立には当事者双方の合意が必要になります。
内縁関係の解消について揉めてしまっている場合はもちろん、内縁関係を解消すべきか悩んでいるという状況でも利用できます。また、内縁関係を解消する際の慰謝料や財産分与等についても、併せて話し合うことが可能です。そのため、内縁関係を解消することにはお互い納得できているけれど、財産分与に関して争いが生じているという理由から、内縁関係調整調停が行われることもあります。
手続きの流れ・必要書類
内縁関係調整調停の手続きは、一般的に次のような流れで進みます。
- ①内縁関係調整調停の申立てをする
- ②家庭裁判所から調停期日を知らせる呼出状が届く
- ③第1回調停期日
- ④第2回以降の調停期日
- ⑤調停の終了(通常、双方が合意すれば成立)
下表では、①の申立ての概要をまとめています。
申立人 | ・内縁の夫 ・内縁の妻 |
---|---|
申立先 | 次のいずれか ・相手方の住所地を管轄する家庭裁判所 ・当事者が合意のうえ決めた家庭裁判所 |
必要な書類 | ・申立書とその写し1通 ・事情説明書 ・連絡先等の届出書 ・進行に関する照会回答書 ・年金分割のための情報通知書(※年金分割についても取り決める場合は必要) ◎個別の事情などによっては、必要な書類が異なる場合もありますのでご注意ください。 |
必要な費用 | ・収入印紙1200円分 ・連絡用の郵便切手(※金額は申立先の家庭裁判所によって異なる) |
財産分与には期限があります?
法律婚の場合、財産分与の期限は「離婚してから2年」とされており、内縁関係の場合も同様に、「内縁関係を解消してから2年」を過ぎると財産分与を請求できなくなります。ただし、相手が任意で応じてくれるようなら、いつでも財産分与することは可能です。
なお、ここでいう“2年”の期限は、消滅時効ではなく除斥期間であると考えられています。どちらも、ある一定の期間を過ぎると権利が消滅する、という点では共通しますが、除斥期間は消滅時効とは異なり、期間の進行を一時的にストップしたり、リセットしたりすることはできません。
住宅ローンが残っている場合の財産分与や、年金分割について
財産の内容によっては、財産分与が複雑になることがあります。例えば、「住宅ローンが残っていたとき」の家の財産分与は、複雑になりがちです。また、財産分与とは別の制度になりますが、「年金分割」についても、複雑な部分が多くてわかりにくいと感じられることがあるようです。
次項より、それぞれ詳しく確認していきましょう。
住宅ローンが残っていたとき
財産分与の対象に家があり、住宅ローンが残っていたとき、複雑になりやすいというのは、離婚に限らず内縁関係を解消する場合も同様です。
残ローンが家の評価額を下回っているアンダーローンであれば、家を売却して手元に残ったお金を分け合ったり、相手に代償金を支払ってどちらかが住み続けたりするといった方法で、財産分与することができます。
しかし、残ローンが家の評価額を上回っているというオーバーローンの場合、資産価値のない家となるので、財産分与の対象にはなりません。家の評価額を超過した分の残ローンの返済義務は、金融機関の承諾を得て債務者の変更をしなければ、内縁関係を解消した後も、ローンを組んだ債務者が負い続けることになります。ただ、公平を期すため、残ローンをどのように負担していくかを話し合って決めることも可能です。
家の財産分与についての詳しい内容は、下記の記事をご覧ください。
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年金分割
年金については、以前は財産分与の一つとして扱われていましたが、2007年4月に「年金分割」という制度が設けられ、財産分与とは別に扱われることになりました。この年金分割制度は、婚姻期間中の夫婦双方の厚生年金記録(かつての共済年金も含む)を、離婚時に夫婦間で分割するというものです。
内縁関係の場合も年金分割することはできます。ただし、法律婚の場合とは異なり、関係解消時に年金分割することができるのは、内縁関係にある相手の被扶養者として、第3号被保険者となっていた期間のみになります。
離婚時の年金分割についての詳しい内容は、下記の記事をご覧ください。
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内縁関係解消時の財産分与に関するQ&A
- Q:
家を購入したのが内縁関係中だった場合、財産分与するときは家を売らないといけませんか?
- A:
家の購入資金の出どころが、内縁関係中に双方の協力によって築いたお金であった場合は、財産分与の対象になりますが、分けるために絶対に家を売らないといけないわけではありません。
家をどのように分けるかは、相手と話し合って合意すれば、自由に決められます。家を売り、その売却代金を分ける方法もあれば、家は売らずにどちらかが住み続け、代わりに家の評価額の半額相当の財産を他方に渡す方法などもあります。
- Q:
内縁の妻が専業主婦だった場合も、内縁関係の解消時に財産分与することはできますか?
- A:
内縁の妻が専業主婦だった場合も、内縁関係の解消時には財産分与することができます。内縁の夫の収入は、内縁の妻が家事労働を行って陰ながら支えたことで得られたものであり、専業主婦も財産の形成に貢献していると考えられるためです。専業主婦で収入がなかったとしても、基本的には2分の1の割合で財産を分けることになります。
内縁関係解消時の財産分与で不安なことがあれば離婚・男女問題に強い弁護士にご相談ください
内縁関係の解消時には、離婚時と同様、財産分与することができます。しかし、お金に関することですから、揉めるケースも珍しくありません。また、内縁関係の場合は、婚姻届を出していないことから、関係性を証明する必要が生じることもあります。
不安なまま財産分与の手続きを進めてしまうと、適切な財産分与を受けられずに後悔する事態も起こり得ます。そうした事態を防ぐには、弁護士に相談・依頼することをおすすめします。法的観点から的確にアドバイスしてもらえますし、代理人として相手と交渉してもらうことなども可能です。
内縁関係解消時の財産分与についてご不安なことがあるときは、まずは弁護士にご相談ください。なかでも離婚・男女問題に強い弁護士なら、より心強い味方となるでしょう。
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- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)