共働き夫婦の離婚に伴う財産分与はどうする?
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
近年、共働きの夫婦は決して珍しくありません。
共働きの夫婦が離婚する際、それぞれ稼いでいるので、財産分与しなくていいのでは?と考える方もいらっしゃるかと思います。
また共働きといえども、夫婦の一方が高収入で大きな資産を形成している場合は、高額な収入を得ている側としては、2分の1ずつの清算では納得できないと思う方もいらっしゃいます。
そこで、本記事では、“共働き夫婦が離婚するときの財産分与“、“共働きの夫婦が財産分与をしなくてもよいケース“など、「共働き夫婦の財産分与」に関して、詳しく解説していきます。
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共働き夫婦が離婚するときの財産分与
財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築き上げた財産を、離婚する際に公平に分配することです。分配の割合は夫婦それぞれの収入に関係なく、基本的には2分の1ずつとなります。
これは、共働き夫婦が離婚する際も、夫婦の一方が専業主婦(主夫)の場合でも変わりません。
また、離婚原因が何であったのかについては基本的に関係しませんので、たとえ自分の責任で離婚することになったとしても、財産分与を請求できないわけではありません。
財産分与に関する詳しい内容は、下記のページをご覧ください。
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それでは、財産分与の対象となる財産には具体的にどのようなものが含まれているのでしょうか?続けて確認していきましょう。
財産分与の対象となる財産
財産分与の対象となる財産は、婚姻期間中に夫婦で形成・維持してきたものであれば、どちらの名義かは問いません。
具体的には、財産分与の対象となる財産や考慮され得る負債、対象とならない財産は次のとおりとなります。
【財産分与の対象となる財産や負債の例】
- 婚姻中に夫婦が協力して取得・維持した以下の財産
- 現金や預貯金
- 不動産
- 自動車
- 有価証券、投資信託
- 家具や家電
- 美術品や貴金属
- 退職金
働いた期間のうち婚姻期間に応じた退職金 - 負債
結婚生活を送るうえで必要な借金の場合等(例:住宅ローン)
【財産分与の対象とならない財産の例】
- 結婚前に夫婦が各自で得た財産
- どちらかの親や親族から贈与された、または相続した財産
- 別居中に夫婦が各自で得た財産
- 家計維持のためではなく、ギャンブルや浪費など個人的な理由による借金
なお、負債がある場合は、財産分与の対象となる資産額から負債額を差し引いてから、残りの金額が財産分与の対象となり、基本的に2分の1ずつに分け合います。
住宅ローンがあり、アンダーローンの場合は、不動産の現在の価値から住宅ローンの残額を差し引いてから、残りの金額を財産分与の対象とします。なお、オーバーローンの場合は、財産分与の対象とはなりません。
別財布だった場合の財産分与
共働き夫婦の方々は、生活費はお互いに分担して出し合い、残りのお金は各自で管理するといったように、財布を別にしている場合もあるでしょう。
別財布にしていたのだから、それぞれが貯めたお金や買ったものは渡したくないと思う人もいるかもしれません。しかし、別財布にしていたとしても、婚姻中に得た収入から貯めたお金や買ったものは財産分与の対象となり、割合も変わらず基本的に2分の1となります。
ただし、夫婦間で合意できれば、「お互いの名義になっているものはそれぞれが受け取る」といったように取り決めることも可能です。
共働きで別財布にしている夫婦が離婚するときは、相手の財産をきちんと把握し、財産分与の対象となる財産がいくらあるのかを確認しておくことが重要です。
共働きの場合の財産分与が修正されるケース
共働きの場合、事情によっては財産を半分ずつ分け合うことは不公平だと感じるケースもあるでしょう。そこで、例外的に財産分与の割合が2分の1ではない割合に修正されることがあります。
例外的な扱いがなされるのは、どのようなケースなのでしょうか?以下、例を挙げて確認していきます。
一方が高額な収入を得ている場合
夫婦の一方が高額の収入を得ていて、夫婦に収入の差があったとしても、財産の形成や維持にそれぞれ夫婦がどの程度貢献したのかは財産分与する際に考慮しますが、収入の差は影響しませんので、基本的には2分の1ずつで分け合うのが一般的です。
夫婦の一方が高額な収入を得られたのは、もう一方の配偶者が家事や育児をして、仕事に専念できるように支えていたからと考えられるからです。
ただし、例外的に夫婦の一方が医者など特別な資格をもっていたり、スポーツ選手や芸能人など特殊な能力、才能があったりして、高額な資産形成がなされた場合には、財産分与の割合を「6:4」や「7:3」などに修正させることはあります。
一方が経営している会社で働いている場合
夫婦の一方が経営している会社で、もう一方の配偶者が働いている場合も、基本的に財産分与の割合は2分の1ずつとなります。
ただし、夫婦のうち会社を経営している側の特殊な技能や才覚によって事業が拡大して多額の財産が得られている場合は、財産分与の割合は2分の1ずつから修正されて、会社を経営している側が会社で働いている配偶者側よりも財産分与の割合が多くなる可能性はあります。
夫婦の一方が家事のほとんどをしていたら?
夫婦の一方が家事のほとんどをしていた場合、夫婦の収入額が同程度であれば、家事のほとんどをしていた方がより財産形成に貢献していたとして、2分の1以上の割合で多く財産を受け取れる可能性があります。
そもそも財産分与の割合は、「夫婦がそれぞれどのくらい財産形成に貢献してきたか」という観点で決まります。
「家事」も貢献度に含まれるので、お互いの収入を考慮したうえ、家事の負担が大きくなっている方に多くの財産が行き渡るよう、財産分与の割合が修正されることがあります。
共働き夫婦の離婚に伴う財産分与の決め方
共働き夫婦が離婚時に財産分与するときの主な手順は、以下のとおりです。
- ①お互いの預貯金通帳を開示するなどして、財産分与の対象になる財産を確認する
- ②財産分与の割合を決める
- ③財産分与の支払方法を決める(現物をそのまま渡すのか、お金で支払うのか等)
決め方としては、「夫婦間で話し合う(協議)→家庭裁判所の調停委員を間に挟んで話し合う(調停)→裁判所に判断を求める(裁判)」という流れで進めていくのが一般的です。
なお、離婚後に財産分与のみを決める場合は、「協議→調停(「財産分与請求調停」)→審判」または「協議→審判」という流れになります。
審判は、調停とは異なり、裁判所での話し合いではなく、家庭裁判所の裁判官が事件について終局的な判断をする手続きです。調停が不成立となったときには自動的に審判の手続きに移りますが、調停を経ずにいきなり審判を申し立てるケースもあります。
下記のページでは、財産分与の決め方について詳しく解説していますので、こちらもぜひご覧ください。
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財産を隠すのは危険
財産分与で相手に財産をとられるのが嫌だと考えて、財産を隠そうとする方がいます。
財産隠しは夫婦間では刑事罰にあたりませんが、場合によっては、不法行為にあたり、財産分与請求に加えて民事上の損害賠償請求をされる危険があります。
さらに、財産を隠し通そうとしても、弁護士による弁護士会照会や裁判手続中に可能である調査嘱託によって、金融機関や保険会社に情報の開示請求や調査が行えます。
したがって、財産分与をする際は、お互いに財産を提示して、きちんと財産分与するのが望ましいです。
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メールで相談する借金やローンが残っている場合
個人的な趣味嗜好であるパチンコや競馬などギャンブルのためにした借金や独身時代の借金などは、財産分与の対象となりません。
一方で、住宅ローンや、自動車ローン、子供の教育ローン、生活のために借り入れたお金など、夫婦が共同生活を営んでいくうえで生じた借金は財産分与の中で考慮される場合があります。
ただし、原則として、借金やローンの名義人が変更されることはなく、プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多いケースでは財産分与の請求は認められません。
しかし、夫婦間の内部的な約束で、例えば妻が夫名義の借金の半額分を支払うと取り決めすることは任意であり、義務ではありませんが可能です。
共働きの夫婦が財産分与をしなくてもよいケース
共働きの夫婦であろうとも基本的には財産分与は公平に分配します。
ただし、例外的に財産分与をしなくてもいいケースがあります。
次項より詳しく解説していきます。
離婚時の話し合いで財産分与しないと合意した
財産分与請求権を行使するかは、夫婦の自由であり、財産分与をしないと合意することも可能です。
財産分与しない場合は、あとからトラブルにならないように、離婚協議書を作成し、「夫婦双方が財産分与請求権を放棄する」旨を記載しておくようにしましょう。
財産分与の請求期間の時効が過ぎた
財産分与の申立ての期限は「離婚した日から2年以内」です。
離婚から2年を経過すると、財産分与をしなくて済みます。
ただし、財産分与には慰謝料を含めて請求することも可能あり、離婚慰謝料として請求される可能性はあります。
婚姻前に夫婦財産契約を結んでいた
婚姻前に「夫婦財産契約」を結び、離婚の際の財産分与の方法を定めておくことで、財産分与をしないで済む、または、財産分与額を抑えられる可能性があります。
夫婦財産契約とは、婚姻前に、婚姻中の婚姻費用の分担や日常の家事に関する債務の連帯責任、夫婦間における財産の帰属についてルールを定めておくものです。
ただし、婚姻届の提出までに締結しておかなければいけなかったり、登記が必要だったり、登記後の内容変更が容易ではなかったりするので、実際、夫婦財産契約制度を利用している夫婦は少ないです。
共働き夫婦が離婚する際の財産分与を弁護士に依頼するメリット
共働き夫婦は、それぞれが負担する生活費を決めていて、それ以外は自分で管理している方が多く、相手がどのような資産をいくらぐらいもっているのか把握していないケースが多く見受けられます。
財産分与で不利益を被らないようにするには、弁護士に依頼して財産分与の協議をすることをお勧めします。
直接弁護士から財産分与について話があれば、相手に心理的プレッシャーを与えて、財産隠しを防ぎ、相手の所有しているすべての財産を把握してきっちり財産分与できる可能性が高まります。
また住宅ローンが残っていて、夫婦の共有名義の場合などは、どちらが住宅に住み続けるのか、離婚後住宅ローンの返済はどうするかなど複雑な判断が必要になり得ます。
弁護士に依頼すれば、それぞれ夫婦の事情を聞き取ったうえで、適切なアドバイスがもらえます。
共働き夫婦の財産分与に関するQ&A
- Q:
離婚時に財産分与をしないと決めてしまった場合、撤回はできますか?
- A:
離婚時に財産分与をしないと決めてしまった場合、基本的に撤回はできず、財産分与を請求することは非常に困難です。
ただし、相手に財産を隠されていたため、財産分与の対象となる財産がない、または少ないと思い込み、財産分与をしないと決めていた場合には、財産分与に関する契約が無効とされたり、損害賠償金を請求でることがあります。
- Q:
離婚するときに財産分与を拒否された場合の対処法はありますか?
- A:
離婚するときに財産分与について話し合ったものの拒否された場合、次なる手段として考えられるのが「調停(離婚調停)」です。調停では、離婚するかどうか、財産分与をはじめとした離婚条件はどうするかを、家庭裁判所の調停委員を通して話し合うことができます。
調停でも拒否され、調停不成立となってしまった場合には、最終手段として「裁判(離婚裁判)」を行い、裁判所の判断を仰ぐのが一般的な流れです。裁判で希望する財産分与を実現するためには、対象となる財産を明らかにし、どのように分けていくべきかを適切に主張・立証していくことが重要です。
専門知識が必要になるので、弁護士の力を借りることをおすすめします。
- Q:
離婚を機に妻が退職し、退職金が支払われました。共働きでも退職金の財産分与は可能ですか?
- A:
共働きでも、退職金の財産分与は可能です。ただし、財産分与の対象になるのは、働いた期間のうち婚姻期間に応じた分の退職金になります。
なお、婚姻中であっても、別居中の期間分は基本的に対象にはならないとされています。
退職金の財産分与について、詳しい内容は下記のページで解説しています。こちらもぜひ参考にしてみてください。
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- Q:
共働きの夫婦でも年金分割をすることになるのでしょうか?
- A:
共働きの夫婦のケースであっても、離婚時に年金分割をすることはできます。対象となるのは、婚姻中に納めていた厚生年金(※かつての共済年金も含む)の保険料の納付記録です。
例えば、夫婦がどちらも厚生年金保険に加入していた場合には、2人が婚姻中に納めた厚生年金保険料の記録を合わせ、分割することが可能です。
年金分割について詳しく知りたい方は、下記のページをご覧ください。
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共働き夫婦の財産分与に関するご相談は、経験豊富な弁護士にお任せください。
共働き夫婦でも、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産は、離婚時に分け合うことができます。しかし、なかには財布を別に管理していて、「相手の財産状況がわからず困っている」といったお悩みを抱えている方もいるでしょう。
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- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)