養育費の一括請求|デメリットや注意点など知っておくべき知識
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
養育費は、子供の日々の生活費という性質上、原則“毎月払い”とされますが、当事者である父母間で合意があれば、一括請求をして一括で受け取ることも可能です。
養育費は子供が社会的・経済的に自立するまで長期間に支払われるものですから、支払期間の途中で、養育費が支払われなくなるのを懸念して、一括請求を希望される方もいらっしゃいます。
本記事では、“養育費を一括請求するメリットやデメリット”、“一括請求の養育費の計算方法”など、「養育費の一括請求」に関して、様々な角度から解説していきます。
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離婚時の養育費の一括払いは可能
養育費は、子供が日々生活するために必要な費用であるという性質上、定期的に給付されるべき金銭と考えられているため、原則毎月払いとなります。
養育費は長期に渡って支払われるものです。離婚時に子供が幼ければ、養育費の支払期間は15年~20年ほどになり、養育費の総額は1000万円を超えるケースもあります。
もし、子供が2人、3人と複数いる場合は、総額2000万円を超える可能性もあり、養育費を支払う側(義務者)に大金を一括で支払える財力がなければ叶いません。
調停や審判などの裁判所の手続きで養育費を取り決める場合も、裁判所の考えとして、基本的に“定期的に給付されるべき金銭”とされているので、一括払いを認められるのは難しいとされています。
ただし、義務者の同意を得られれば、一括払いは可能です。
たとえば、離婚時に子供が高校生で、養育費の支払期間が短いケースでは、義務者も一括払いの対応がしやすく、同意する可能性もあるでしょう。
養育費を一括請求するメリット
養育費を一括請求するメリットは次のような点が挙げられます。
- 養育費の未払い・滞納を防げる
- 元配偶者との関わりを減らせる
- まとまったお金が入るので、離婚後の生活の不安が払拭できる
- 不払いが原因での強制執行の手続きをする手間が省ける
- 養育費の減額請求をされるリスクが軽減できる
養育費を一括請求するデメリット
他方で、養育費を一括請求するデメリットは次のような点が挙げられます。
- 贈与税の課税対象となるおそれがある
- 将来、予期せぬ事情が生じたときに追加請求が難しい可能性が高い
- 本来受け取れる養育費の金額よりも少ない金額で合意しなければならない可能性がある
- 子供が自立する前に使い切ってしまうおそれがある
- 相手がなかなか合意せず、話し合いが長期化して離婚の成立まで時間がかかるリスクがある
一括請求の養育費の計算方法
養育費の一括請求の場合は、当事者間で合意できている前提となるため、養育費の金額は自由に決められますが、基本的な一括請求の養育費の計算方法は、次の2種類があります。
- ①月額の養育費を合計する
- ②合計金額から減額する
次項より詳しく解説していきます。
①月額の養育費を合計する
まず、月額の養育費の金額を決めます。
養育費の月額の金額は、裁判所のウェブページで公表されている「養育費算定表」を使えば相場を知ることができます。
養育費算定表は、夫婦それぞれの収入と子供の年齢・人数によって養育費の相場がわかる早見表です。調停や審判などの裁判所の手続きで養育費を取り決めるときにも利用されています。
次に、養育費の支払期間を決めます。支払期間も当事者間で自由に決めて問題ありません。
養育費は、子供が経済的・社会的に自立するまでにかかる子供の生活費ですので、子供が”高校卒業する18歳の3月まで”や、“大学卒業する22歳の3月まで”などと話し合って取り決めます。
一般的に20歳までと取り決める方が多いです。
月額の養育費と支払期間が決まれば、計算して合計額を出すことになります。
例えば、現在10歳の子供が1人いるとして、子供が20歳になるまで毎月5万円の養育費を支払うと取り決めた場合・・・・
5万円×120ヶ月(10年×12ヶ月)で計算して、総合計は600万円となります。
弁護士法人ALGでは、月額の養育費を取り決めるときに簡単に相場がわかる「養育費計算ツール」を作成しています。ぜひ、ご活用ください。
②合計金額から減額する
単純に、養育費算定表から算出した養育費の月額の金額と支払期間とで計算した総合計額を一括請求するのではなく、一定程度減額して一括請求する方法もあります。
法的には、“お金は時間とともに利息が生じる”と考えられているため、一括請求は、将来発生し得る利息を差し引かなければ公平ではないとされています。
具体的に減額するには「中間利息を控除する」方法があります。
「中間利息を控除する」とは、現在、一括で受け取る600万円と、長期間に渡って分割で受け取る600万円では、経済的価値が違うという考えに基づいて、総合計額に一定の係数を乗じて算出する計算です。
例えば、現在10歳の子供が1人いるとして、その子供が20歳になるまで毎月5万円の養育費を支払うとして一括請求した総合計が600万円となる場合・・・
5万円×12ヶ月×8.5302(支払期間10年のライプニッツ係数)=511万8120円となります。
養育費の総合計金額より88万円程減額すると、養育費を支払う側(義務者)の合意も得られやすくなる可能性が高まります。
※ライプニッツ係数とは、交通事故の賠償金を計算するときなどによく利用されている、将来受け取るはずの金員を中間利息を差し引いて現在の価値に置き換えるときに用いる指数です。
養育費を取り決める流れ
養育費を取り決めるには、次のとおり①~③の流れとなります。
- ①当事者間での話し合い(交渉)
まずは、当事者間で、養育費の一括請求の可否、金額、支払時期、支払方法などを話し合います。 - ②調停
当事者間では、養育費に関して合意ができなければ、家庭裁判所に調停を申し立てます。
離婚前であれば、離婚調停(夫婦関係調整調停)で、離婚後であれば養育費請求調停となります。
調停では、裁判官や調停委員を交えて話し合いを行って、解決を目指します。 - ③裁判または審判
調停では合意に至らず調停不成立となった場合、離婚前であれば、離婚裁判提起と併せて申し立て、裁判官が一切の事情を考慮して判断します。
離婚後なら、新たに申し立てる必要なく、自動的に審判手続きに移行し、裁判官が養育費について判断します。
養育費の調停については、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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一括請求を希望するなら裁判は避ける
調停は、あくまでも話し合いによる解決を目指す手続きですので、相手が合意すれば一括請求が認められないわけではありませんが、調停委員は毎月払いを原則として考えている傾向にあるので、一括請求を調停委員が積極的に進めてはくれません。
裁判または審判においては、養育費の一括請求を裁判官が認めるのは、よほどの事情がある場合に限られます。
したがって、養育費の一括請求を希望する場合は、話し合いでの解決を目指すべきです。
養育費を一括請求する場合の注意点
養育費を一括請求する場合にはいくつか注意すべき点があります。
次項より詳しく解説していきます。
一括払い後に養育費の追加請求は難しい
一括請求をして受け取った養育費が、何かしらの事情が生じて足りなくなった場合は、養育費の追加請求することもできますが、通常の毎月払いの養育費を請求するよりも難しいです。
理由としては、一括請求の養育費は、通常予想される将来の事情を考慮して養育費の金額を決めていると考えられているからです。
ただし、養育費を一括で受け取ってから、子供が重度の病気やケガをして、多額の医療費が必要になったケースや学費が値上がりして教育費が見込んでいたよりも多くかかってしまうことになったケースなどは、養育費の金額を決めたときには予期できなかった事情変更があったとして、追加請求が認められる可能性はあります。
もっとも、当事者間の合意があれば追加で養育費を支払ってもらうことに問題はありませんが、養育費を支払った側(義務者)からの立場からすれば、養育費の支払義務を果たしたと通常は考えるでしょうから、追加請求されてもなかなか納得しない可能性があります。
話し合いで合意できなければ、養育費増額請求と同様に調停・審判など裁判所の手続きで追加請求することになります。
養育費の一括払いは課税される場合がある
養育費は原則非課税となります。
ただし、養育費を一括請求すると、相当な金額になり得ます。
「子供の生活に必要な範囲を超えている」と国税庁に判断されると、贈与税の課税を受けるおそれがあります。
そもそも贈与税とは、個人から年間110万円を超える財産をもらった場合に、もらった側が負担する税金をいいます。もらった合計金額から基礎控除額110万円を差し引いた残額に贈与税を掛けます。税率は最低10%から最高55%となりますので、贈与税が課せられると、せっかく受け取った養育費が目減りしてしまうことになり得ます。
「養育費に税金はかかるのか」については、下記ページでも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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再婚で返金が必要となる場合がある
月払いで養育費を受け取る場合、養育費を受け取った側(権利者)が再婚をして、子供と再婚相手が養子縁組をした場合、一次的な扶養義務者は再婚相手となり、実親は二次的な扶養義務者となりますので、その後の養育費は免除や減額される可能性があります。
一括請求の場合にも、その後の事情変更等により、先に一括で支払われた養育費を一部返金しなければならない可能性が0ではありません。
信託銀行の利用も検討しよう
養育費を一括で受け取ると、贈与税が課されるおそれがあります。
贈与税対策として、養育費を信託財産(養育信託)にする方法があります。
養育信託とは、養育費を支払う側(義務者)が一括で養育費を支払う分を信託銀行に預けて、信託銀行を経由して子供(受益者)へ給付するものです。離婚後親権者となった父母だけでは解約できませんので、勝手に引き出される心配もありません。
養育信託は贈与税対策だけでなく、子供が自立するまで計画的に養育費を残しておけるかどうかの不安も払拭できます。
弁護士に離婚時の養育費請求の交渉を依頼するメリット
弁護士に養育費請求の交渉を依頼すると、次のようなメリットが考えられます。
- 養育費の適正金額を知れる
- 相手と直接やり取りしなくて済む
- 有利な内容で、早期に解決してくれる可能性が高まる
- 将来的に相手が養育費の不払いをしにくい内容でまとめてくれる
- 公正証書を作成するときも一任できる
- わからない点、不安な点があればすぐに弁護士に聞ける
- 養育費以外の離婚に関する問題についてもアドバイス、サポートしてもらえる
離婚時の養育費一括請求についてのQ&A
- Q:
養育費を一括請求する場合でも、公正証書などの文書は作成するべきですか?
- A:
作成しておいた方がよいでしょう。
養育費の一括請求の合意ができても、実際に支払ってもらう段階でトラブルが生じるおそれもあります。そのような場合に備えて、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておくとリスクが軽減できます。
また、一括請求して養育費を受け取ってから、その後、予測できなかった事情の変更があって、養育費の金額を見直したいと考える場合もあります。
一括で受け取った養育費の内訳がわからなければ、どのように金額を変更すればいいのかわかりません。したがって、養育費の金額をどのように決めたのか、内訳を明確にして書面に残しておくと、追加請求がしやすくなる可能性があります。
そのほかにも養育費以外の財産分与や慰謝料など離婚条件も併せて強制執行認諾文言付公正証書を作成しておくと、約束が守られなかったときには、強制執行の手続きを行って、相手の給与や預貯金などの財産を差し押さえられる利点があります。
- Q:
相手に養育費一括払いのお金がない場合、何か方法はありますか?
- A:
養育費を受け取る側(権利者)の立場からすれば、借金をしてもらってでも一括請求したいと考える方がいらっしゃるかと思いますが、借金をしてまで一括請求に応じてくれるケースは極めて稀です。
お金がない相手からは、毎月払いを求めてくるケースが多いでしょう。ただし、まとまった現金がなくても、自宅不動産や自動車を売却して、売却代金を養育費に充てたり、自宅不動産や有価証券など金銭以外のものを養育費の代わりとして譲ってもらったりする方法はあります。
ただし、自宅不動産を譲り受けて、相手が引き続き住宅ローンの返済中の場合、住宅ローンを滞納されて競売にかけられてしまうおそれがありますので注意が必要です。
- Q:
養育費を一括請求する場合の相場はいくらですか?
- A:
月額の養育費の相場は、裁判所のウェブページで公表されている養育費算定表を参考にするのが一般的です。養育費算定表は、夫婦それぞれの年収と子供の年齢・人数によって養育費の相場が算定できるようになっています。
一括請求の場合の相場は、養育費算定表に基づいて養育費の月額の金額を算定して、支払期間を乗じることで計算できます。
ただし、一括請求は、養育費を支払う側(義務者)の負担を考慮して、養育費算定表を基にして計算した総合計より減額して合意されるケースが多いです。
- Q:
認知なしの子どもの養育費を一括請求できますか?
- A:
養育費は、法律上の親子関係が生じる場合に、支払義務があります。
したがって、認知していない場合は、法律上の親子関係が生じていませんので、父親に養育費の支払義務はありません。ただし、父親が任意で養育費を支払うこと、一括請求に応じることに同意すれば、養育費を一括請求して受け取っても問題ありません。
裁判所の手続きを利用する手段もありますが、解決まで長期化するおそれがあるので、まずは当事者間で養育費の請求と一括請求について話し合いで解決することをお勧めします。
養育費の一括請求でお困りなら、弁護士への相談がおすすめです
養育費は、子供の日々の生活費に使われるお金だと考えられているため、原則“月払い”です。
しかし、「相手と早く縁を切りたいから」、「将来養育費を不払いしそうだから」など様々な理由で、一括請求を希望される方もいらっしゃるかと思います。
養育費の一括請求を希望されている方、お困りのある方は、まずは弁護士にご相談ください。
相手と合意できれば、養育費の一括請求をして受け取っても問題ありません。
しかし、相手が拒否したり、贈与税がかかるおそれがあったり、受け取り後に追加請求してトラブルになったりと、なかなか一筋縄ではいかないケースも多いのが実情です。
弁護士に依頼すれば、相手と直接交渉することも可能ですし、税金対策についてもアドバイスすることができます。
そのほかにもトラブル防止のための公正証書の作成や公証役場とのやりとりも行います。
養育費の一括請求は、裁判所の手続きではなかなか認められませんので、相手との直接交渉(話し合い)で解決すべきです。まずはお気軽に弁護士法人ALGにお問合せください。
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- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)